次世代農業

インファーム・ジャパン

サステナブルで美しい次世代農業を、日本各地に広げていきたい

2021年1月。スーパーマーケットの店内に野菜畑をつくり、そこで栽培・収穫した野菜をそのまま消費者に販売するというサービスが始まりました。産地からの輸送の過程で生じるエネルギー消費やCO2排出、食品ロスなどを削減しながら、採れたての新鮮な野菜を消費者に届けるこの画期的な仕組みを実現したのは、東京・渋谷区の「インファーム・ジャパン」。導入1号店の開設に奔走し、現在は将来に向けた経営計画の立案を手掛ける五月女仁香さんに、入社から現在に至るまでの取り組みをお聞きしました。

Business Person

Infarm-Indoor Urban Farming Japan 株式会社
ビジネス・ディベロップメント・リード

五月女 仁香

高校2年生の時に米国の高校に留学、卒業後、東京大学に進学して経済学を学ぶ。幼い頃から共働きの両親を見て育ち、自分も早く社会に出たい、と考えるようになる。2020年春、当時内定していたシカゴ拠点の会社への就職がコロナ禍のなか立ち消えに。新たな職場を探していたところ、友人の紹介で設立後間もないインファーム・ジャパンを知る。「未知の世界で働くのなら、いろいろなことに挑戦できる会社で」という想いで2020年7月に同社一人目の社員として入社。

 

Contents

 

設立間もない会社に「楽しそう!」と入社

――卒業後、さまざまな選択肢があるなかで、なぜこの会社を選んだのでしょうか?

  当初は内定していたシカゴにある会社に入社する予定だったのですが、折からのコロナ禍でビザがなかなか降りず、大学の卒業式の数日後に見通しが立たないという連絡を受けました。「いま?じゃあどうする?」。そんな時に某スタートアップに勤めていた友人から紹介されたのが、今までにない水耕栽培装置を開発し、グローバル展開を開始していたドイツ企業の日本法人、インファーム・ジャパンでした。実は私が渡米をあきらめる前、アルバイトをしていたインキュベーション施設での交流会に、友人とともにインファーム・ジャパンの平石社長が参加しており、事業について直接お話を聞いていました。

――どんな感想を抱きましたか?

    「スーパーなどの店舗の中にファーミングユニットと呼ぶ“農場”を設置して、そこで栽培した野菜をそのまま消費者に届ける、それは輸送時のエネルギー消費やCO2排出、廃棄ロスを抑制するだけでなく、消費者にとっても化学農薬を使用していない栄養素が豊富な採れたての野菜を入手できるというメリットがある」――そんな話を聞き、とても可能性のある事業だと感じました。米国留学の際、社会課題解決に関わるベンチャー企業が次々と生まれていることは肌感覚で認識していたので、「サステナビリティ」というテーマに私は「成長」というイメージをもっていました。

――サステナビリティというテーマに関心はあったのでしょうか?

    正直なところ、当時の私にとっては、社会課題解決そのものへの興味よりも「楽しそう!」という直感的な期待の方が大きかったです。インファームは、ベルリンで設立されました。インファーム・ジャパンは、ベルリンで開発された「屋内型垂直農法」をグローバル展開していくなかで、アジア初の拠点として2020年に設立されたばかりの日本法人。社員は、ドイツ法人の株主でもある日本法人社長の平石と、日本法人設立に伴う各種手続きや平石のサポートをする管理部門のスタッフの2人だけでした。そんな会社が日本市場で事業を行っていくためには、ベルリンで開発されたフォーマットをそのまま流用するのではなく、日本の商習慣や消費者の好みなどを踏まえて、さまざまなアレンジを施していくことが必要です。未知の世界で、なおかつ社長とオフィスマネージャー以外に人はいない。人手を必要としているのであれば、新卒の私でもできることがあるのではないかと思い、ワクワクした気持ちになりました。また、そんななかで自分自身がどう反応し、創意工夫しながら成長できるのかという点に大きな関心を抱きました。

スーパー店内のファーミングユニットに苗を植え付けて栽培。IoTやAIを活用し、生育状況に合わせた最適な環境を24時間遠隔管理。

スタッフが収穫して根を付けた状態で販売。水を入れたコップに浸しておけば家庭でも新鮮さを長く維持できる。

フルスロットルで動く充実感

――入社後、どんな業務を経験しましたか?

 2020年7月に入社しました。コロナ禍で止まっていたプロジェクトを再スタートさせようという段階で、ベルリン側の「ジャパンエクスパンションチーム」と一緒にアジア初となる東京でのローンチ(出店)をめざしていました。

 具体的な業務としては、日本市場に合った品種は何か、どのお店にどんなボリュームで、どんなパッケージでアプローチするかというマーケティング面から、ファーミングユニットの輸入・設置に関する手続きや、栽培拠点の整備などハードウェアの面まで、多岐にわたる業務を経験させてもらいました。

――とくに印象に残っている仕事はありますか?

 社長と一緒に行った営業活動です。私の役割はそこで話された内容をベルリンのスタッフに伝え、意見を社長にフィードバックするというサポート役でしたが、社長のプレゼンテーションの言葉に、これまでベンチャー企業を幾つも立ち上げてきた方ならではのチャレンジ精神を感じました。

 また、個人的には都内近郊にある苗などの栽培拠点の整備業務も思い出深いです。ベルリンスタッフの当初の来日スケジュールが、コロナ禍で大幅に遅れていたため、私ともう一人の日本チームのスタッフで丸2日間、栽培用設備部品の入った段ボールを一つずつ開梱し、本社スタッフと映像で確認しながら栽培拠点をレイアウトしていきました。

――何もかもが初めての体験ですね。

 はい。農業の経験もビジネスの経験もなく、どの仕事もわからないことばかりでしたが、2021年1月の第一号店の出店まで、フルスロットルで動く充実感を得られたことは確かです。また、どの仕事も学生時代に経験したアルバイトでは得難かった「社会とのつながり」を実感できる喜びがありました。その喜びは、私が学生時代から抱いていた「早く社会に出てみたい」「成長を実感したい」という興味とつながっています。

収穫スタッフとして働く五月女さん

会社の未来を描く仕事に挑戦

――1月に1号店がオープンしました。 

 2020年の年末ぐらいから、翌年1月に控えた1号店のオープンに向けて、店内での苗植えや収穫を担当するスタッフ、ハードウェアの管理をするエンジニアなど、ビジネス組織としての布陣が整備されてきました。その後、順調に出店が進むなか、私はいろいろな経験させてもらっていたこともあり、栽培施設の運営を中心に、新しく出店したお店での栽培・収穫・パッケージングなども担当していましたが、その後、組織体制がさらに進化し、7月からは「ビジネス・ディベロップメント・リード」という、いわゆる事業開発を担うポジションを任されました。

――事業開発の仕事とは?

 そのミッションは、インファーム・ジャパンの将来――当社は現状、いわゆる首都圏のスーパーマーケットやレストランにターゲットを絞っていますが、この顧客層を拡大し、「5年以内に7大都市圏へ展開する」という中期目標に向けて、具体的な数値を掲げながらロードマップを描いていくことにあります。また、ロードマップを描くだけではなく、見込み顧客の発掘とプレゼンテーションなど、自分たちで立案したプランを具現化するため、実際に行動に移しています。どの街の、どんなお店に、どんな野菜・ハーブを品ぞろえし、どんなビジネスモデルを構築していけばいいのか。そのために、技術開発・設備・スタッフの採用にどれだけ投資していけばいいのか…。現在進めているほとんどすべての工程が自動化された栽培拠点の新設や日本市場に最適化された品種の導入などにも取り組んでいます。

――事業開発を推進するためにどんなことを学んでいますか?

 種苗の栽培や店内でのオペレーションで学んだノウハウと、売上や損益、投資計画といった経営数値を結びつけるためには、財務や損益管理など、まだまだ学ぶことはたくさんあります。ただ同時に、新しいビジネスモデルを持ち前のスピードで展開するインファーム・ジャパンの経営計画に、きっと正解はないだろうとも思います。

 ですから、世の中に新たな価値を提案し、その変化のなかでいろいろなことに挑戦できることを、楽しみたいと思います。

“美しい”ビジネスモデルを広める

――読者の皆様にメッセージをお願いします。

 お店の中に農場をつくって、そこで栽培したハーブや野菜をそのまま消費者に販売する“究極の地産地消”モデルには、環境問題の解決という左脳に働きかける道理だけでなく、野菜の栽培過程をお店でじっくり観察できたり、採れたての香り豊かなハーブや野菜がいつでも食べられるなど、右脳にも働きかける“美しさ”があると思います。しかも、一般的な水耕栽培…いわゆる郊外型の「野菜工場」とは異なり、きめ細かに消費者ニーズに応えていくことができます。 

――美しいビジネスモデル?

 はい。サステナブルなビジネスモデルはたくさんありますが、消費者の美意識に訴えるものはそうありません。美意識の高い日本の多くの消費者の皆様に「もっと新鮮、もっとサステナブル、もっとおいしい」というインファーム・ジャパンならではの価値を提案し、全国に共感の輪を拡げていきたいと思います。

 

Infarm - Indoor Urban Farming GmbH

2013年にドイツ・ベルリンで創業。 独自開発した水耕栽培装置(ファーミングユニット)を用いた次世代型屋内垂直農法により、現在は世界 11カ国 (カナダ、チェコ、デンマーク、フランス、ドイツ、日本、ルクセンブルク、オランダ、イギリス、アメリカ、スイス)、30 都市で約1400のユニットを展開。トマト、キノコ類、チリペッパーを含む 75 以上の品種の栽培に成功し、世界全体で毎月 100 万本以上のハーブ・野菜を栽培・収穫・販売。

https://www.infarm.com/

Infarm – Indoor Urban Farming Japan 株式会社

Infarm - Indoor Urban Farming GmbH の日本法人として2020年2月設立。2021年1月に紀ノ国屋インターナショナル(青山店)にてアジア初展開。2021年11月時点での取扱店舗は11店舗(うちファーミングユニット未設置は4店)。そのほか都内のレストランにハーブを提供している。栽培する品種は、イタリアンバジル、パクチー、イタリアンパセリ、レッドソレル、わさびルッコラ、クリスタルレタスなど15 品種。

 

新しい記事へ