Perspectives

「ビジネスのちから」で環境・社会課題を解決する
“新しい視点”を。

株式会社りそなホールディングス 

あらゆる世代への金融経済教育で“資産運用立国”の実現に貢献

キーワード:金融教育/次世代育成

2019年、高齢化や人口減少によって「公的年金以外に老後資金として2,000万円が必要になる」という金融庁の報告書が話題になりました。その後、経済成長と国民の資産所得増加を目的として2022年に「資産所得倍増プラン」、2023年には「資産運用立国実現プラン」が打ち出され、国を挙げて「貯蓄から投資へ」が推奨されています。それに伴って必要性を増しているのが“国民の金融リテラシー向上”です。20年前から小学生向けの金融経済教育を実施してきたりそなグループの取り組みについて、サステナビリティ推進室の吉本様にお話を伺いました。

Person

株式会社りそなホールディングス グループ戦略部 サステナビリティ推進室長

吉本 圭吾 

学生時代は塾の講師を目指していたが、社会勉強のつもりで始めた就職活動中に出会った先輩社員に魅力を感じ、大和銀行(当時)へ入行。大阪配属となり、窓口業務や法人融資担当を経験。その後、東京本部の財務部に異動となり、2018年からはTCFD提言に基づく情報開示を担当。機関投資家との対話の中でステークホルダーが求める情報を把握し、サステナビリティに関するりそなグループの取り組みを発信。サステナビリティ推進が戦略部門管轄になった後のタイミングでサステナビリティ推進室長に就任した。

社会貢献を目的に始めた活動が「社会の存続のための重要課題」の一つに

――りそなグループが金融経済教育に取り組み始めた背景を教えてください。

 りそなグループでは、2005年から現在まで、「キッズマネーアカデミー」という小学生向けの金融経済教育を各地の拠点で開催しています。子供たちにお金や働くことの大切さを伝えることを目的としており、従業員が代々作成してきたオリジナルの教材を使って、クイズやゲームを交えながら楽しく学んでもらっています。取り組みのきっかけとなったのは、2003年の公的資金注入、いわゆる「りそなショック」と言われた出来事です。「社会から公的資金を注入して助けていただいた、その恩返しがしたい」という従業員の想いから始まりました。

 当初は「社会への恩返し」という意識で始めた活動でしたが、今や日本の経済成長と個人の資産所得増加のために「金融経済教育」は国家戦略の重要な柱の1つに位置付けられています。金融広報中央委員会が実施したアンケートで、「金融経済教育を受けた」という意識がある人が7%しかいなかったという結果が出ていますが、海外に比べて金融リテラシーが低位であることが日本において“貯蓄から投資への動き”が広がらない要因の一つになっています。こうした現状を踏まえて、学習指導要領にも金融経済教育が盛り込まれるなど、学校で金融経済教育を実施する動きが広がっています。

 一方で、学校の先生方からは「どのように教えたらよいか」というお悩みの声が上がっています。また、インターネットの普及により新たな金融犯罪が台頭し、若年層が金融詐欺などの被害を受ける事例が増えています。このような新しい犯罪に対し、一人ひとりがちゃんとした知識を身につけて自衛していく必要があります。

 こうしたなか、当グループは金融経済教育を“社会の存続のために取り組むべき大きな課題の一つ”としてとらえ、小学生以外にも、中高大学生、社会人、退職後の高齢者も含め、世代ごとの金融経済教育を一層充実させていくモードにシフトチェンジしました。

――具体的な取り組みはどんなものですか。

 ご要望をいただいて小・中・高・大学等で行う出張授業や、職場体験の受入をする際に金融経済教育の時間を設けるなどしている他、小学生向けには夏休み期間に合わせて全国の拠点に地域の小学生を招いて「夏キッズ」というイベントを開催しています。地域の企業や団体の方々とコラボするなど、お金のことだけでなく「環境」や「食」に関する様々な社会体験を提供することに繋がっています。社会人や高齢者の方に向けては、支店で資産形成や金融詐欺に関するセミナーを開催したり、お取引先企業の社員の方向けに職域セミナーなどを開催したりしています。

 加えて、2024年3月に小中高生やその保護者の方向けの金融経済教育動画を、世代ごとに制作して公開しました。中高生向け動画は代々木ゼミナールさんとの共同制作で、公開から3カ月で動画視聴回数が1万回を超えたことには驚きました。対面で1万人に講義を行うことを考えると、短期間でこれだけできるのはデジタルの強みです。また、たまたま動画の存在を知った学校の先生や地域の団体の方々から「授業に使いたい」というお申し出をいただけたことも嬉しかったです。

「夏キッズ」の様子

金融経済教育動画の告知チラシ

りそな「ならでは」の価値あるコンテンツをあらゆる世代に届ける

――学校の先生はどんなことに悩んでおられるのでしょうか。

 近年は学校の授業で使える様々な教材が出回っていますので、それらを使って授業をする先生も増えていると思います。その中で「単に金融の知識を伝えるだけでなく、生きる力を育む知恵を身につけてもらうには、どう教えれば良いのか」と課題を感じている先生もいらっしゃいます。

 例えば、高校の先生から出張授業のご要望をいただくことが多いテーマの1つが「投資」です。先生自身に投資経験が少ない場合、そこを金融機関に補って欲しいというご要望をいただいています。また「クレジットカード」について、使い過ぎについての注意点を金融機関の視点から伝えて欲しいというご要望もあります。「教育を受ける側にとっての価値」に真摯に向き合う先生が多いことに感銘を受けています。

 地域にもよりますが、多いところでは月に2、3校から出張授業のご依頼を頂いており、評判を近隣の先生同士が共有して、うちでもやってほしい、とご依頼を頂くこともあります。1回だけでなく、複数回に渡って授業に組み込んでいただける学校もあります。

――そのようなお悩みを受けて、御社ではどんな工夫をされていますか?

 例えば、高校生ならどんな知識を身につけるべきか、中学生にはこれを知ってほしい、といった観点でオリジナルの教材を作成しています。世代ごとに知るべき事柄や伝え方は異なるからです。今秋に大阪の公立高校で3年生を対象とした出張授業のご依頼をいただいているのですが、先生にお伺いしたご要望を元に、改めてオリジナルの教材を作成しました。初めて使う部分が多いので、事前準備として大学生に“高校生になったつもり”で授業の内容を聞いてもらい、直すべきところをアジャストして臨むよう計画しています。

 というのも、自分たちは金融のプロであるが故に「生徒たちが何がわからないのかが、わからない」のです。例えば銀行業務のことを説明するときに、よく「銀行の三大業務は「預金」「融資」「為替」です」と説明しますが、「為替」という言葉を聞いて具体的なイメージを思い浮かべられる生徒は少ないと思います。このように、言葉一つとってもとっつきにくい部分があるので、年代に合わせてかみくだいて説明するよう心がけています。

――そのほかの取り組みについても教えてください。

 新入社員研修でも「金融経済教育」をカリキュラムに組み込んでいます。小学生向けに開催している「キッズマネーアカデミー」は、入社1、2年目の従業員を中心に企画・運営を担うことが多いからです。一つの企画を仕切って、自ら主体的に動き、周りの先輩を巻き込んで進めていくことは、キャリア形成に繋がります。また、普段の業務は上司や先輩から教わることが多いなか、自分たちが中心となって支店のイベントを仕上げることにやりがいを感じる従業員も多いです。加えて、「子どもたちにわかってもらう、子どもたちに楽しんでもらう」ということをつきつめるのは、相手の立場に立って話したり、提案したりする一つの実践になります。その気づき、成功体験が、参加従業員96%の「やってよかった」という感想につながっています。

 ほかにも、当社グループは「貧困の負の連鎖」を断つことをめざし、フードドライブ()などの取り組みを実施していますが、これも現場発の取り組みです。支店の従業員から、地域でそのような活動をしている人と一緒に取り組みたい、という声が挙がったところから始まり、社内で横展開することで他の地域にも広がりました。現場発というのは当社グループらしい取り組み方だと思っています。

地域の子どもたちに向けて、家庭で消費しきれない食料品等を持ち寄って寄付する活動

――社会人に対する教育は何か想定されていますか?

 各支店で社会人向けにライフプランや資産運用のセミナーを開催するといった取り組みは、当社グループに限らず全国の金融機関が実施してきたと思います。それでも「金融経済教育を受けたという意識を持つ人が7%しかいない」という現状があります。

 こうした現状を踏まえて、2024年4月にJ-FLEC(金融経済教育推進機構)という認可法人が立ち上がっています。幅広い年齢層に向けて、「金融経済教育の機会を官民一体で全国的に拡充していくこと」を目的としており、特定の金融機関から距離を置き、人々の立場に立って金融経済教育の普及に注力しておられます。当社としてもコラボレーションなどを通じて、まだリーチできていない方々にどう金融経済教育をお届けするか、関わり方を模索しています。

 また、先にお話しした世代別の金融経済教育動画では、親子で学べるキャンペーンを実施するなど、親御さんも一緒に見ていただける工夫をしました。

――今後の目標を教えてください。

 小学生向けの「キッズマネーアカデミー」は、今年度4,000人の参加を目標に掲げました。中高大学生向けはまだ施策の数が少ないと思っており、今後強化していきます。大切にしたいのは「先生や受講生にとっての価値は何か」「りそなグループだからこそ提供できる価値は何か」を考え続けることです。そこにこだわって活動していけば、結果がついてくると考えています。

 銀行は数多くの法人・個人のお客さまとのチャネルを有する業種です。特にリテールに強い当社はそれが顕著です。それらのチャネルを資本として、社会課題解決にどう生かすかも重要な視点で、差別化のポイントになります。今後、学校の先生に「りそなグループのこの話を聞きたい」と言ってもらえるところまで価値を高めていきたいと考えています。

お客様にとっての「価値」をサステナビリティ推進の原動力に

――改めて、りそなグループの持続可能な社会の実現に向けた取り組みを教えてください。

 2030年のSDGs達成に向けたコミットメントをまとめています。「地域経済の活性化」「少子高齢化に起因する将来不安の解消」「地球温暖化・気候変動への対応」「ダイバーシティ&インクルージョン」という4つのテーマについて6つのコミットメントを明示しており、金融リテラシー向上の取り組みはそのうちの1つです。

 私がSDGsのロゴを初めて見たのは2018年のことでしたが、正直、「飢餓を無くそう」とか「貧困をなくそう」というのは海外支援の話で当社には関係ないのではないか?というのが第一印象でした。しかし、時を同じくしてTCFD提言に基づく情報開示の担当になり、自分で勉強したり社外の方と対話する中で、これは海外の恵まれない方たちの話ではなく、将来の日本人の問題かもしれない、と思い至るようになり、意識が変わりました。

 根源的な問題は、人口爆発だと思っています。現在の80億人が将来的には100億人になり、さらに気候変動などの影響で農作物が十分に収穫できなくなると、水や食料が全人類に行き届かなくなるかもしれません。このような事態を回避していくため、金融機関として果たすべき役割を実践していきます。

りそなグループのサステナビリティ取り組みの歩み

――取り組みを進めるうえで、気を付けていることを教えて下さい。

 SDGsは人類として取り組むべき大義・正義ですが、それだけで人は動きません。ではどんな時に動くかというと、私はそこに「価値」を感じた時だと考えます。

 中堅・中小企業であれば、事業環境が確かに良くなる、そう感じられるための何かが必要です。例えば、中堅・中小企業で人材不足に苦労している企業はたくさんあります。サステナビリティのテーマの一つに人的資本強化がありますが、従業員のウェルビーイング、ファイナンシャルウェルビーイングの追求、生きがい・やりがいの創出に積極的に取り組むことで、人材が獲得しやすくなり事業環境もよくなる。そういう仕組みを私たちが作っていけないか。これは当部門だけでなく、りそなグループ全体の課題だと考えています。

――ありがとうございました。最後に、吉本さんは今の仕事にどんなやりがいを感じておられますか。

 大学時代に塾講師になりたかったこともあり、教えるのが好きなので、今取り組んでいる金融経済教育や社内外に向けたSDGs教育など、結局自分が好きなことをやっているな、と思っています。どんな話をしたら気づきを得てもらえるか、楽しく理解していただけるか、あれこれ仮説を立てながら講義資料を作って、実際に期待以上の反応を得られると、一生懸命やったかいがあったな、と嬉しくなりますし、次もがんばろうと思えます。

 サステナビリティ取り組みは正解がない世界なので、やり方は自分で考えるしかありません。確証がないので仮説しかない中、自由に設計図を描いて、それを実践してその仮説が正しいとわかれば会社としての方針につながる。そこに大きなやりがいを感じます。

 銀行の業務は定められた手続きが多くて、支店にいた時はその手続きから外れると怒られるのがすごく嫌だったのですが(笑)、自分でルールを作ってやりたいように動けるのは面白いですね。

大学生インタビュアーによる取材後記

 りそなホールディングスでは、金融教育への需要が高まる前から「社会への恩返し」として金融教育を始めたと聞き、素晴らしい取り組みだと感じました。出張授業に行くと現場の先生から「来てもらってよかった」という声が多く上がるとのことでしたので、お話にも出てきた「りそなだからこそできる授業」を追求して広めていってほしいと思いました。私自身、大学生になって自由に使えるお金は増えたものの、投資のやり方などは分からないことばかりなので、機会があれば金融教育を受けてみたいと感じました。
 また、吉本様は元々人に教えることが好きとのことで、銀行勤めをしていながらも、このように教育をする仕事に携わり、自分が1番好きなことを今できていると、とても生き生きと話されていました。私もそのような偶然の出会いを楽しみながら、その時にできることを精一杯やっていきたいと思いました。

(千葉大学理学部物理学科3年 佐々木七菜)

 持続可能な社会の実現に向けて取り組まれているSX推進は、一見するとボランティア的な社会貢献事業に見えますが、実際にはりそなグループ様にもその取引先企業様にも利益になっているということが印象に残りました。サステナビリティに関する活動が実質的に企業の本業の面でも役に立つということは、世界的にSXが進む契機になる大事な要素だと感じます。
 また、純粋にこどもに楽しんでもらいたいという意識から始まっている金融教育が徐々に広がりを見せているのは素晴らしいことだと思いました。企業と同様、価値を感じているものに進んで取り組むという学生の性質にうまくフィットした目的意識がそのような成功をもたらしたのだろうと思います。

(千葉大学理学部化学科1年 高須駿一)

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株式会社りそなホールディングス

りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、みなと銀行などから成るりそなグループのホールディングカンパニー。「金融+で、未来をプラスに。」というパーパスのもと、グループ銀行が長い歴史のなかで築き上げた「リテール基盤」と2003年の公的資金注入後のりそな改革を通じて培われた「変革のDNA」により、「リテールNo.1」を目指して銀行業から金融サービス業への進化を続けている。

https://www.resona-gr.co.jp/

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