Perspectives

「ビジネスのちから」で環境・社会課題を解決する
“新しい視点”を。

大和電設工業株式会社 

病院給食の未来を変える「AI献立サービス」で、入院患者様とチーム医療をサポート

キーワード:AI活用/少子高齢化/患者のQOL向上

日本では人口の高齢化が進む中で医療ニーズが多様化・高度化し、患者の栄養管理の重要性も高まっています。このような状況を受けて、対策の一つとして期待されるNST(Nutrition Support Team=栄養サポートチーム)を設置する病院が増えました。そうした中で、NSTの活動に参加する管理栄養士をサポートし、かつ患者様に食べる喜びを提供すべく、栄養給食管理システム「ニュートリメイト」を提供する大和電設工業株式会社は新機能「AI献立サービス」を2024年にリリースしました。そのサービスを自ら企画してプロジェクトの中心的役割を担った泉さんに、開発ストーリーを伺いました。

Person

大和電設工業株式会社 ソリューション事業部 ソリューション営業部 新規ビジネス推進室 課長代理

泉 健太

2010年に入社後、システムエンジニアとして大学・研究機関向け放射性同位元素の管理システムの開発・運用に携わる。2012年からは「ニュートリメイト」の機能開発と企画開発を担当。2023年に親会社であるエクシオグループ株式会社への出向を経て、2024年に「AI献立作成サービス」をリリース。現在はニュートリメイトに加え、新規ビジネスの推進も担う。

個人に合わせた給食管理ができるシステムの提供

――栄養給食管理システム「ニュートリメイト」とは、どのようなものですか。

 病院や介護施設の給食管理には、多種多様な業務があります。医師から出される食事指示書「食事箋」をもとにした患者一人ひとりの食事内容の管理、献立作成、食材の発注や在庫管理、調理、配膳、各種報告業務…。それらをトータルにバックアップし、業務効率化に貢献するシステムが「ニュートリメイト」です。口コミを中心に広がり、現在、500床以上ある全国の病院の約3割で導入されています。

 「ニュートリメイト」の誕生は、1980年代にさかのぼります。当時の一般的な病院給食は、糖尿病や腎臓病など特定の疾患に応じた画一的なメニューを提供する集団給食でした。そんな中、ある病院から「患者一人ひとりに合わせた給食を提供したい」というシステム開発の相談が当社、大和電設工業に寄せられました。患者の健康状態や治療による食事の禁忌やアレルギーだけでなく、個人の食の嗜好なども踏まえた給食で患者をサポートしたいというのです。その考え方に当社は共感し、また将来的に需要も高まると考え、集団給食から個別給食へという新しいソリューションをめざして「ニュートリメイト」を開発しました。リリース後、時代のニーズに合わせてバージョンアップを重ねており、病院や介護施設で近年導入の進むニュークックチル(※1)方式などにも対応しています。

※1 あらかじめチルド状態で盛り付けた食事を、提供時に器ごと再加熱して提供する調理方式。従来のクックチル方式では、加熱後に盛り付けを行う必要があったが、ニュークックチル方式では再加熱後すぐに提供できるため、効率的な大量調理や人手の削減が可能となり、近年導入が進んでいる。


――ロングセラー商品なのですね。最新バージョンのポイントを教えてください。

 「AI献立サービス」という新しい機能を追加したことです。私が企画提案して2024年に実装したもので、管理栄養士に代わってAIが献立を作成します。これも昨今のニーズに応えるバージョンアップです。

 アイデアのきっかけは2022年に当社が実施した調査です。病院・介護施設に給食管理の課題を訊ねたところ、人手不足(※2)と業務の多様化により管理栄養士の負担が増化していること、中でも特に献立作成の業務負荷が高いことが挙げられました。管理栄養士は、病院によっては1日あたり約100種類の献立を作成します。しかし昨今、NST(Nutrition Support Team=栄養サポートチーム)を設置する病院が増え、管理栄養士が従来の給食管理に加えて医療現場での患者の栄養管理も担う機会が多くなりました。NSTでの活動が増えて、献立作成に割ける時間が減っているのです。NSTは、患者の治療効果を高めて在院日数の短縮につながると期待されていて、高齢化の進行に伴う入院患者の増加と病床不足の対策として有意義です。そこで、管理栄養士がNST等の栄養ケアを通じて患者と向き合う時間を増やせるよう、献立作成を自動化できないかと考えたのです。

 私たち「ニュートリメイト」チームには、長く給食管理システムを提供する中で培った献立のノウハウがあります。それを活かしつつ、近年進化しているAI技術を使って献立を作成できる機能を開発しようと構想を練っていきました。

※2 団塊の世代が2022年から順次75歳(後期高齢者)を迎えるにつれ、増加の見込まれる入院患者数に対応するための人手の確保が課題となっている。

――確かに進化の目覚ましいAIですが、献立作成の苦労や、逆にメリットはどんなところでしょうか。

 「AI献立サービス」は、栄養量や食材原価の計算はもちろん、季節感や和洋中などのバリエーションも考慮してAIが自動で献立作成する機能です。開発において苦労したのは、メニューの組み合わせなど、いかに自然な献立を実現するかというところでした。献立には病院の位置する地域の特性や季節感など、人が習慣的、感覚的に捉えてきた言語化しにくい要素を反映する必要があります。そういう要素も含めて過去の献立をAIに学習させることで、病院それぞれの特徴を踏まえた献立を作成できるように開発しました。

 AIを活用するメリットは、やはり膨大な情報を記憶できるので、多数の患者の食の嗜好を反映できるのはもちろん、禁忌やアレルギー対応におけるリスク対策などインシデント管理も徹底できることです。食材を効率良く使ってフードロスを減らし、給食のコストも削減できます。当初の目的である患者のQOL向上をはじめ、病院給食の現場で求められていたさまざまなことを「AI献立作成サービス」で実現できました。

グループ各社が連携しイノベーションを生み出す

――泉さんと「ニュートリメイト」の関わりを改めて教えてください。

 私は、2012年に「ニュートリメイト」のチームに配属されました。病院で電子カルテの導入が進み、デジタル化への意識が変わってきた頃で、給食管理システムに対する需要も高まっていました。「AI献立サービス」を企画提案したと先ほど話しましたが、実は私、もともとシステムエンジニアで、当初の担当はユーザーインターフェースなど運用面での機能改善だったのです。ただ、新しい機能を考えることも好きで、運用面に限らず考えたことを企画提案することもありました。嬉しいことに、そうした提案を柔軟に受け入れてくれる職場なので、システムエンジニアでありながら企画開発も担うという働き方をするようになりました。

――二刀流ですね! それで「AI献立サービス」の開発も泉さんが主導したのですか? 

 発案者という点ではそうも言えますが、私は開発プロジェクトの一員で、プロジェクト自体、親会社であるエクシオグループ株式会社と当社が共同でヘルスケア領域の新規事業開拓に取り組むことになり、さまざまな新規事業を検討する中で「ニュートリメイト」をベースにしようと決まったのです。そこで、私の提案した「AI献立サービス」が採用された、という経緯です。給食管理の課題やニーズの調査分析に基づいて企画したことから、まさに今の社会課題の解決につながるであろうと評価してもらうことができました。

 そういう経緯で、企画開発を担当することになりました。しかし、新規事業に関する実務経験が十分でなかったため、実践的な知見を深める必要がありました。そこで、グループ内でもイノベーションに積極的なエクシオグループに出向して先進的なビジネスの現場に身を置くことで、企画立案から実行までを学ぶ機会をいただくことになりました。10カ月の出向期間中、社内の研修に参加しながらビジネスモデルの考え方や新規事業の立ち上げについて多くを学びました。なかでも市場分析や顧客ニーズの把握の仕方について体系的に学べたことで、視点や捉え方が変わったと思います。そして、当社に戻ってから出向中に学んだことを「AI献立サービス」の企画開発に落とし込み、「ニュートリメイト」の新機能としてリリースしました。

業務効率化と患者のQOL向上に貢献

――お客様から「AI献立サービス」に対してどのような反応がありましたか。

 時間も労力もかかる献立作成が自動でできるようになったことに対して、驚きと喜びの声をいただいています。一方で、AIによる献立をそのままは使わず、参考にして人手で調整しているというお客様もいます。病院によって調理設備やシフトの組み方が異なり、例えば煮物と焼き物を同時に調理できないといったケースがありますが、現状の「AI献立サービス」では個々のオペレーションにまで対応しきれないからです。今後、さまざまなオペレーションに対応できるようアップデートしていきたいと考えています。そうすることで「AI献立サービス」がきっと、より多くの病院・介護施設へと普及していく。そんな手ごたえを感じています。

――使い勝手などリアルな声を聞いて、これからも進化し続けるんですね。

 はい! 病院給食は治療の側面だけではなく、患者様にとって入院生活における楽しみでもあります。「AI献立サービス」の導入で以前にも増して個々の食の嗜好に応えられるようになり、患者様から喜びの声をいただけたのが何よりの励みです。業務効率化だけでなく、患者様のQOL向上にもつながるような、病院給食の未来を変えるプロダクトだと感じています。

 現在、患者様の喫食率や、どの料理を食べてどの料理を食べなかったのかをAIが画像分析し、献立作成に活用していく技術を研究開発中です。今後も現場の声を聞きながら、患者様や病院へ一層のメリットを生み出していきたいです。

 「AI献立サービス」のほかにも、現在、自治体や大学と連携したヘルスケア領域の新規ビジネス開発を進めています。今後もグループ各社のノウハウを活用しながら、人々の健康を支えるプラットフォームとして「ニュートリメイト」を発展させていきます。エクシオグループには、さまざまな事業を展開する各社が連携して新たなサービスやプロダクトを生み出すイノベーション文化があります。私も「AI献立サービス」の経験で良い刺激を得て、開発も運用もいろいろなイノベーション創出に挑戦していこうと思います。

取材後記

 「AI」と「病院給食」の組み合わせの意外さに惹かれて始まった今回の取材。お話を聞いてみるとまず、元をたどれば40年を超えるロングセラーのサービスであるということに驚きました。また、栄養や禁忌、食材原価だけでなく、季節感やその土地の風土なども学習して献立を作成するという話には、AIの可能性の広がりを実感しました。

 患者さんのQOL向上、フードロス削減、健康寿命の延伸、管理栄養士さんの業務負担の軽減など、多方面での社会課題の解決に貢献する可能性を秘めた「AI献立サービス」。今後のさらなる進化が楽しみです。

(ブレーンセンターNY)

大和電設工業株式会社

創業70年以上、東北の総合エンジニアリング企業として、通信インフラ・土木インフラ・電気設備インフラ・システムソリューション事業を展開し、地域の快適な環境作りをサポートしている。エクシオグループ株式会社のグループ会社。

https://www.ddk.co.jp/

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