リサイクル

UACJ

世界初。CO2を従来比60%削減する“100%リサイクルアルミ”使用の水平リサイクル缶を実現

「軽い・強い・さびにくい・加工しやすい」という性質から、輸送機器をはじめさまざまな用途に用いられているアルミ素材。加えて近年は、新地金でアルミ製品をつくる時に比べてCO2を97%削減できる「リサイクル性」が評価され、アルミ缶は95%以上が再生地金として社会にリサイクルされています。ところが従来、アルミ缶からアルミ缶へとリサイクルする水平リサイクルにおいては、どうしても新地金で成分を調整せざるを得なかったのが現実です。そこでUACJは、水平リサイクルのさらなる推進を目指す技術開発や、サプライチェーン全体でのリサイクルシステムの構築を図っています。そのなかで、2022年には世界初となるリサイクルアルミ100%使用飲料缶を実現し、CO2排出量を従来比60%削減することに成功しました。プロジェクトの最前線で、キープロセスである100%再生原料の調達・配合に携わった花田さんにお話を伺いました。

Business Person

株式会社UACJ 福井製造所 生産技術部 鋳造技術室

花田智浩

高等専門学校時代からニュースなどで地球温暖化問題について関心をもち、「技術の力で環境負荷低減に役立ちたい」という想いを抱く。大学では「あらゆる構造物の根源であり、社会を根本から変える力をもつ」ことから、材料工学を専攻。講義や学会などでアルミ素材のリサイクル性などが環境負荷低減に貢献し、新素材の開発余地も大いにあることを確信し、2021年にUACJに入社。主力工場である福井製造所でアルミ原料をカタチにする中枢となる鋳造工程を担当し、生産性・品質向上に努めている。

 

Contents

 

環境負荷削減という成長戦略 : 
使用済みアルミ缶を新たなアルミ缶へ。
水平リサイクル活動を展開

――世界初となるリサイクルアルミ100%使用飲料缶の開発に成功しました。まずはこのプロジェクトの背景から教えてください。

 はい、アルミ素材はご存じのように軽い・強い・さびにくい・加工しやすいなどという性質があり、現代社会になくてはならない素材となっています。そのなかでも近年大きく注目されている特長が「軽量性」で、気候変動危機が叫ばれるなか、自動車や鉄道、航空機、船舶などに積極的に採用されており、燃費向上によるCO2排出量の削減に貢献しています。

 こうした特長に加えて、気候変動にさらに貢献できる取り組みと言われているのが、アルミ素材がもつ「リサイクル性」を活かした取り組みです。実は数ある素材のなかでも、アルミニウムはとくにリサイクル性に優れた素材で、「新地金」を製造する際には製錬工程で大量の電力を消費しますが、リサイクルでつくる「再生地金」は製錬工程が不要となり、CO2排出量は新地金からつくる時のわずか3%、97%ものCO2を削減することができるのです。

 こうした特性を活かすべく、アルミ缶業界では約50年前からリサイクルを行っていて、そのリサイクル率は今や約97%。サーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現したビジネスモデルの一つと言われています。また、日本はまだまだPETボトルが多いですが、世界的にはアルミ缶へのシフトが進んでいます。

アルミ缶リサイクル協会調べ(2021年度)

UACJ調べ

――アルミ缶のリサイクル率、使用率を高めるほど製品ライフサイクルにおけるCO2排出量低減が可能になるということですね。

 そうです。そうした考えのもと、当社は2021年に定めた「UACJ VISION 2030」の一つに「製品ライフサイクルでのCO2削減により、環境負荷の軽減に貢献する」を掲げています。また、その実践に向けて、サプライチェーン全体で連携して、使用済みアルミ缶をリサイクルして新たなアルミ缶をつくる“Can to Can”の水平リサイクル活動を展開しており、今回のプロジェクトもその一環となります。

「使用済みアルミ缶材100%」プロジェクト : 
パートナー企業とともにアルミ缶1缶あたりのCO2排出量60%削減をめざす

――プロジェクトの概要を教えてください。

 私は2021年に新卒でUACJに入社したのですが、その年の初めにサントリー様から、アルミニウムのリサイクルをさらに進めていく施策についてお問い合わせをいただいたのが発端だと聞いています。そのなかで、今回の100%リサイクル缶を実現するというテーマが設けられました。それを実現するためには、成分の良いリサイクル原料を集めることから始めなければなりません。そこで缶メーカーやリサイクル事業者からアルミ缶および缶材料の製造工程で発生する端材や使用済み飲料缶のスクラップを調達し、それを当社が圧延加工し、再生原料として缶メーカーに納入する――それが今回のプロジェクトの全体像です。

――多くのステークホルダーが協働するプロジェクトなんですね。

 はい、リサイクルには多くのパートナーとともにバリューチェーンを構築して、再生原料の成分に関する知見や加工技術を常に共有し続けていくことが不可欠になります。

――リサイクルアルミ100%の水平リサイクルは世界初ということですが、100%という点にどのような意義があるのでしょうか。

 はい。さきほど使用済みアルミ缶の97%が再びアルミニウム製品にリサイクルされていると言いましたが、素材価値を損なうことなく缶から缶へと水平リサイクルできているのは国内で再生されたもののうち67%程度です。その理由として、同じ缶材でも胴体と蓋の部分では合金の種類が異なることが挙げられます。また、使用済みのアルミ缶にはそれぞれ異なる塗料が付着しており、さらに廃棄される際にはさまざまな異物が混入しています。

 こうした条件があることから、従来のリサイクルはすべてを缶由来の再生地金でつくることが難しく、強度をはじめとしたさまざまな性質を満たすために、一部にどうしても新地金を活用して成分を調整せざるを得ず、CO2排出量がなかなか削減できませんでした。そこで、新地金を活用せず、すべての原料を「使用済み缶」と、缶および缶材料の製造工程で発生する「端材」で満たしていくのがこのプロジェクトの社会的意義といえます。具体的な数値で言うと、1缶あたりのCO2排出量は通常品より60%削減できることになります。つまり100%という目標の達成は、Can to Canの水平リサイクル活動のフェイズを大きく進展させることになるのです。

リサイクルへの想い : 
“サーキュラーエコノミーの心臓”になるために、これからも目の前の原料の性能変化を面白がりつつ、環境負荷削減につながる仕事に携わっていきたい

――世界初という目標を掲げたプロジェクトのなかで、花田さんは具体的にどのような役割を担ったのでしょうか。

 私が所属している鋳造技術室は、原料を溶かして固めるという製造工程のなかで、生産能力の向上や品質維持・向上、コストダウン、設備安全化などを行っています。そのなかで私は最初の「原料」を担当しており、原料の成分や加工しやすさなどの評価をして、どんな原料を活用してどう配合し、どのように溶かし、固めたら目的の性能・品質をもった製品になるかを突き詰めていく役割を担っています。

――今回、再生原料100%を実現したわけですが、従来の原料と比べてどんな難しさがありましたか。

 部署としては、どんなに雑多で低品質なスクラップであっても、新地金同様に使いこなせる合金・プロセス開発力が必要です。そのなかで自分にとっては、多種多様な原料、つまり使用済みアルミ素材一つひとつの成分を評価し、配合によって目標の成分になるよう知見を積み上げ、最終的にリサイクル率100%にもっていくことがミッションです。

 ただ、評価以前の難しさとして、リサイクルに適した使用済みの缶や端材を集めることが大変だったのはあまり想定していませんでした。もちろんリサイクル業者さんからスクラップを購入するのですが、缶胴体と蓋の部分は材質が異なっており、それらが一緒に潰されて集められるため、求める成分のスクラップが集まらず、発売予定の量にはなかなか届きませんでした。そこで、製造工程から発生もしくは購入したスクラップの中で成分が良いものを集めて、予定量になるまで別管理するなど、時間をかけてスクラップを確保していきました。

 次に、原料を確立していく部分での難しさでは、やはり何といっても従来のように“成分調整ができない”こと、つまり新地金が使えないという点に尽きます。集めたリサイクル缶や端材一つひとつの成分を評価して混ぜ合わせながら一定の成分範囲に収める必要があるのですが、その組み合わせは無数にあり、かつ成分値が数%違うと最終的な製品の性能が大きく変化します。したがって成分値が異なると最終的な性能が担保できなくなってしまいます。もっとも、大学院時代にはマグネシウムやアルミニウムといった素材の配合によって性能が劇的に変化することが面白くて材料工学を専攻していましたので、仕事そのものは興味深くモチベーションは維持できていましたが、やはり仕事となると予算も期間も定められており、面白さと同時にプレッシャーも感じていました。

――そうしたなかでどんな工夫をしたのでしょうか。

 缶材料になり得る原料については、あたりまえのことですがきちんと分析データを残しながら、求められる性能から逆算して分析していく――そうした原料管理にはとくに気を使っていました。そうした地道な作業が功を奏したのか、秋ぐらいには予定していた350ml缶約70万本分の原料調達にめどがつき、大いに安堵したことが印象に残っています。

――達成感ではなく安堵だったのですね。

 やはり入社して間もなくのプロジェクトでしたから緊張感がありました。ただ、缶に「世界初CO2 60%削減缶/リサイクルアルミ材100%使用缶」としっかり書いて売り出されたことで「このプロジェクトに関わっていたんだ」と、じわじわと喜びが増していきました。また、大学の同期からも連絡をもらえました。彼ら彼女らは専門知識があるので100%リサイクル材にすることがいかに大変なことかを知っており、すごく驚いていて嬉しかったですね。また両親からも連絡があり、それも含めて「UACJに来て良かった」としみじみ思いました。

2022年9月にサントリー株式会社から発売された「ザ・プレミアム・モルツ CO2削減缶」(左)と「同〈香る〉エール CO2削減缶」(右)

――今後の計画、ご自身の抱負について聞かせてください。

 100%リサイクル缶に関しては原料調達の難しさもあり、今のところ予定や計画は聞いていません。ただ、カーボンニュートラル、循環型社会への関心が高まるなか、今後もさまざまな気候変動対策を強化していくことが求められており、当社においても「リサイクル性というアルミ素材の特長を正しく社会に伝えながら社内外の協業を通じて“サーキュラーエコノミーの心臓”になる」、と宣言しています。そのために、私が所属する鋳造技術室においても、水平リサイクル率を上げていくための明確な社内目標が掲げられています。

 そうしたなかで、自分としては原料調達に関しても新たなアプローチを始める必要性を感じており、また評価・分析・配合といった技術に関してもどんどん経験を積んでいきたいと思います。何か要請があった時に「できない」とは言いたくありませんからね。

――今回のプロジェクトを通じてそうした想いはさらに深まりましたか。

 間違いなく強まりました。実は材料工学を専攻したのも、高専時代に環境問題の解決に貢献できるという話を聞いたところから始まっています。ですから、これからも目の前の原料の性能変化を面白がりつつ、長い目で見て環境負荷削減につながる仕事に携わっていることに喜びを感じながら日々を過ごしていきたいと思います。

 

株式会社UACJ


アルミニウム、銅などの非鉄金属とその合金を製造・販売。なかでもアルミニウムについては、板製品から押出品、箔、鋳物、鍛造品、さらにはそれらの加工品やカラー塗装品まで、多彩な製品を製造する“アルミニウム総合メーカー”として高いシェアを誇る。2021年からは従来よりも新地金の使用比率を下げた環境配慮型のアルミニウム製品ブランド「UACJ SMART」を展開。「2030年度までにCO2排出量を30%削減(19年度比、Scope1、2)」をめざし、サステナビリティを中心に据えた企業経営を推進している。

https://www.uacj.co.jp/index.htm

 

取材後記

アルミ缶のリサイクル率は90%以上を誇り、環境負荷削減に優秀な素材であることは、ひろく知られていることと思います。今回の取材では、100%までの「あと数パーセント」を達成するには、複雑な条件が絡み合っており、とても難しいということがよくわかりました。その難解な問題に、UACJさんはもちろん、サプライチェーンの各社が連携して立ち向かい、しかも「世界初」という快挙を成し遂げられたことは、とても清々しいストーリーだと感じました。

アルミニウムは、リサイクル性だけではなく、車体の軽量化による燃費向上からCO2排出量削減についても貢献するなど、社会課題解決にはなくてはならない素材です。100年を超えてアルミニウムの知見を培われているUACJさんだからこそ、 今後、“サーキュラーエコノミーの心臓”として、循環型社会構築に大きく寄与されるものと期待しています。

(株式会社ブレーンセンター ST)

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