キーワード:カーボンニュートラル/サーキュラーエコノミー/SBT認証
豊田通商は、「未来の子供たちにより良い地球を届ける」をミッションに掲げ、その実現に向けてカーボンニュートラルからネイチャーポジティブへと視野を拡大、より包括的な環境価値の創出を目指しています。そのために同社は2021年7月、自社の温室効果ガス排出(Scope1およびScope2)について2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目指す「カーボンニュートラル宣言」を公表し、2025年8月には、バリューチェーン全体の排出(Scope3)も対象とした「ネットゼロ宣言」へと目標を進化させています。これらミッションや目標を達成すべく、現在、同社では脱炭素化を「ビジネスチャンス」と捉え、営業本部を横断した「5ワーキンググループ(WG)」を組成して「再エネ・エネマネ」、「バッテリー」「資源循環・3R」など5つの分野で事業化を推進する独自の戦略を展開。2030年までの10年間で総額2兆円規模の投資を予定しています。同社カーボンニュートラル推進部の西塚茂輝氏に、その戦略と展望を聞きました。
Person
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豊田通商株式会社 カーボンニュートラル推進部 CN連携グループ
西塚 茂輝
2011年入社。食料関係の営業本部で畜産飼料業界に長く携わる。2年間のブラジル赴任中、現地で目の当たりにした経済活動と環境価値の両立の難しさに課題意識を抱き、2020年の日本政府のカーボンニュートラル宣言を機に、「ビジネスと環境の両立」の可能性を確信。社内公募制度を活用し、2025年4月より現職。対外広報、社内の機運醸成、5WG(5つのワーキンググループ)の窓口対応などを担当。
未来の子供たちにより良い地球を届ける
豊田通商は、50年以上前の1970年代に、トヨタグループをはじめとするお客さまやパートナーの事業課題に応えるべく、ELV(使用済み自動車)の適正処理事業を開始しました。自動車生産のバリューチェーンの中で、原材料の調達から、廃車や廃プラスチックなどの資源回収、そして再資源化までを一貫して行っており、資源循環は当社にとってまさに“祖業”の一つとも言える分野です。
そんな当社がカーボンニュートラル戦略を本格的に始動させたのは、2021年7月のことです。2050年までにScope1・2排出量をカーボンニュートラルにし、2030年には2019年比で50%削減するという野心的な目標を掲げました。
この戦略策定の背景には、いくつかの重要な転換点がありました。最も大きかったのは、2020年10月の日本政府によるカーボンニュートラル宣言です。私自身、キャリアの中で2年間ブラジルに赴任していたのですが、現地で圧倒的な自然環境の豊かさを目の当たりにする一方で、森林伐採など環境破壊の現実も見てきました。ビジネスと環境保全の両立に悩んでいたなかで、政府の宣言と豊田通商の戦略発表を知り、「ビジネスと環境の両立が本当に可能なんだ」と確信したことを覚えています。
もちろん、背景にはパリ協定に基づく世界的な脱炭素化の潮流や、投資家・ステークホルダーからのESG要求の高まりもあります。CDPなどの評価機関による格付けが企業価値に影響を与えるようになり、気候変動対策は経営の最重要課題となっていました。
しかし、豊田通商のカーボンニュートラル戦略を、単なる外部要請への対応と捉えるのは適切ではありません。私たちが掲げるミッションは「未来の子供たちにより良い地球を届ける」というものです。投資の是非、取り組みの継続、新しいビジネスの創出――あらゆる意思決定の場面において、私たちはいつも「どの選択が「Be the Right ONE、かつ、未来の子供たちのためになるか」を議論しています。カーボンニュートラルは経営トップの強いコミットメントのもと、豊田通商の存在意義そのものとして位置づけられているのです。
「リーディングCE(サーキュラーエコノミー)プロバイダー」をめざして5つの分野に投資
豊田通商のカーボンニュートラル戦略には、大きく2つの特長があります。
一つは、「リーディングCE(サーキュラーエコノミー)プロバイダー」というビジョンを掲げていることです。多くの商社が地球を掘って資源を採掘する「動脈」のビジネスに注力していた時代から、私たちはトヨタグループの一員として、鉄スクラップの回収やリサイクルといった「静脈」のビジネスを長らく手がけてきました。
それは50年以上前の1970年代、メタルリサイクルや鉄スクラップ事業から始まりましたが、次第に車載用、繊維、ペットボトル等の樹脂リサイクルに広がり、最近では、電気自動車の普及を見越した車載用バッテリーの資源循環へと拡大しています。こうした「静脈なら豊通」という強みが、今のカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーという時代の流れに非常にマッチしているのです。
Vision(ありたい姿):リーディングCE(Circular Economy)プロバイダー
カーボンニュートラル達成に向け、トップランナーとして中央突破しつつ、CE全体に戦線を拡大していきます。
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(出典)豊田通商株式会社「カーボンニュートラルロードマップ2030」より
もう一つの特徴は、脱炭素化を「コスト」ではなく「ビジネスチャンス」として捉えている点にあります。具体的には、「Must Do」と「Opportunity」という2つのアプローチを設定しています。
「Must Do」は、主にカーボンニュートラル推進部のグリーンマネジメントグループが担当する“自社の責任を果たすための取り組み”で、Scope1・2の排出量削減を指します。一方、主にカーボンニュートラル連携グループが担う「Opportunity」は、“事業を通じて脱炭素社会に貢献し、同時にビジネスを拡大する取り組み”です。この考え方の核心は、「自社のCO2削減に取り組むこと自体が、ビジネスチャンスである」という点にあります。
この「Opportunity」を実行していくために、当社は強みとする5つの領域を特定し、「5ワーキンググループ(以下、WG)」と呼ぶ営業本部を横断した5つのWGを組成。2030年までの10年間で2兆円規模の投資を行い、環境貢献と事業化による収益力の向上を図っていきます。
「5WG」の取り組み
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再生可能エネルギー・エネルギーマネジメントWG(投資額1兆円)
「CN一丁目一番地」と位置づけられる最重要分野。再エネ発電の導入拡大、主要顧客グループの脱炭素化支援、自社における全世界電力使用量の50%再エネ化を目指している。
(例)子会社のユーラスエナジーは日本最大の再エネ発電事業者で、この強みを活かして再エネの普及拡大を進めている。 -
バッテリーWG(投資額4,500億円)
「CNイノベーションサイクル」として、バッテリーの資源開発からリビルト・リユース・リサイクルまで幅広く挑戦。リチウムなどの希少資源の安定確保、原材料・部品の製造事業化、電池製造事業への参画、リサイクルの仕組みづくりなど、バリューチェーン全体での課題解決を目指している。
(例)韓国のLGグループと共同出資し、リチウムイオン電池材料の安定供給に取り組んでいる。 -
水素・代替燃料WG(投資額2,000億円)
「未来エネルギーへの道」として、大規模な水素・FC(燃料電池)利活用モデルを港湾・公共交通・物流分野で10カ所以上実現すること、FCパワトレの外販市場で30%のシェア確保、バイオ由来などのCN燃料開発・サプライチェーン構築を推進している。
(例)名古屋で水素供給インフラ「サプライネット」がNEDOの補助金事業に採択された。 -
資源循環・3RWG(投資額2,500億円)
「静脈なら豊通」をスローガンに、「CO2を減らす、なくす、CO2から創る」をキーワードとした資源循環を深化。希少金属の再資源化、プラスチックのリサイクル、再エネ機器のリサイクル、CCU技術開発など、脱炭素目線での資源循環を推進している。
(例)車に使われる樹脂のCar to Car 水平リサイクルに取り組んでいる。 -
Economy of Life WG(投資額1,000億円)
「未来の子供たちの笑顔へ」として、「医衣食住」に関わる領域でCO2の排出削減および吸収・活用に取り組んでいる。アグリビジネスを通じたCCUS、食ビジネスのCN化、繊維・ファッション領域でのサーキュラーエコノミー推進などを展開している。
(例)繊維リサイクルでは、衣服を回収して他国に輸出するだけでなく、繊維から繊維という形で戻せるよう、国内外のパートナーと循環の輪を創造。
2050年に向けた「カーボンニュートラルロードマップ」を策定
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(出典)豊田通商株式会社「カーボンニュートラルロードマップ2030」より
当社は、これら脱炭素に向けた投資と、Scope1・2・3のGHG(温室効果ガス)削減に向けた取り組みを、2030年に向けたロードマップとして対外公表しています。(「カーボンニュートラルロードマップ2030」)
ロードマップは大きく3つのフェーズに分けて推進しており、フェーズ1(2021-23年)の「創成期」では、排出量の把握と推進体制の構築を行いました。
現在のフェーズ2(2024-26年)は「エコシステムの形成」の段階です。各WGの活動を横でつなげていくことで、よりシナジーを生み出していこうとしています。例えば、再エネ・エネマネWGの事業で生み出した再エネをバッテリーWGの蓄電技術と組み合わせることで、再エネの弱みである不安定性を解決することができます。このように、当社が持つ独自の強みを掛け合わせ、サプライチェーンをつなげていくことで大きな価値が生まれると考えています。
将来のフェーズ3(2027-30年)では、つながった世界、深く結びついた各WGの活動が花開く「カーボンニュートラルエコシステム」の完成を目指しています。
現状の成果としては、Scope1・2の削減では、2024年実績で69万t-CO2となり、2019年基準年から11万t-CO2削減しました。また、Scope3を含めた削減貢献量は約45百万(直接貢献約8百万、間接貢献37百万)t-CO2に達しています。総合商社である当社は、Scope3の影響が非常に大きいのですが、これを逆にポテンシャルと考え、スコープ3も含めたネットゼロを掲げています。
こうした取り組みは外部からも高く評価されています。国際的な環境評価機関であるCDPからは、「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」の3部門すべてにおいて最高評価を獲得し、2024年から2年連続でトリプルAリスト企業に選定されました。また、総合商社として初めてSBTネットゼロの認定を取得しています。SBT認定では、「非資源ビジネスへの注力」という当社のポートフォリオの特徴が評価されました。
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また、各WGでも具体的な事業化が進んでいます。再エネ・エネマネWGでは、再生可能エネルギー発電で国内No.1の実績を持つ子会社、ユーラスエナジーホールディングスを通じて、データセンターへの再エネ供給事業への投資を検討しています。水素・代替燃料WGでは名古屋のサプライネット事業、資源循環・3R WGでは北米トップクラスのリサイクル会社Radius Recycling,Inc.の買収など、これらの事業をハブとして取引先や商流をつなげていく連携が構築されつつあります。
足元では、再エネ電力やリサイクル材の導入など、これまではコストを理由に進めなかった施策についての社外からの問い合わせが急増しています。経済合理性のある削減施策はすでにおおむね着手しており、今後はこうした外部の新たなニーズにどこまで応えられるかが次なるチャレンジとなります。
未来を担う子どもたちに想いを伝える
今後の展望として、技術やビジネスだけでなく、社会全体を巻き込んでいくことが重要だと考えています。サーキュラーエコノミーは、デマンドサイドが変わらなければ回りません。そのため、事業活動の推進と並行して小中学校での環境教育など、脱炭素を目指す仲間作りに向けた地道な活動も続けています。
未来を担う子供たちに、大人が悩みながらも楽しく一生懸命に取り組んでいる姿を見せることで、カーボンニュートラルが単なるコストではなく、楽しいものだという価値観の形成につながればと思っています。

1948年に設立されたトヨタグループの総合商社。「未来の子供たちにより良い地球を届ける」というMissionを掲げ、唯一無二の存在"Be the Right ONE"を目指す。約130カ国におよぶグローバルネットワークと、約1,000社のグループ会社を通じて、メタル、サーキュラーエコノミー、サプライチェーン、モビリティ、グリーンインフラなど8つの事業領域で多角的なビジネスを展開。世界各国において、豊かで快適な社会づくりと地球環境に欠かすことのできない商品やサービスを提供し、持続可能な社会の実現に貢献している。



