Perspectives

「ビジネスのちから」で環境・社会課題を解決する
“新しい視点”を。

カリモク家具株式会社 

技術と共創によりあらゆる木材に価値を見出し、 日本の林業と森林の未来に光を

キーワード:森林資源の循環/林業の持続可能性

国内木製家具製造では最大手となるカリモク家具株式会社。同社はその成り立ちから、創業期より「木を余すことなく活かす」文化を育んできました。また、現在はそうした姿勢を「木とつくる幸せな暮らし」というグループミッションとして明文化。家具メーカーの枠を超え、木材を活かした製品で顧客のライフスタイルに価値をもたらす企業への転換を図っています。森林資源の循環に課題を抱える日本において、同社は契約サプライヤーから、これまで家具などには使いにくいとされてきた「未利用材」も買い取り、独自の加工技術で活用しています。また、通常の家具製品の基準においても、木材の色むらや節目などを「ナチュラルマーク」と呼び、天然の証、木の個性と捉えて提供。高いデザイン力で資源循環と製品価値の両立を実現しています。さらに、新設した「KARIMOKU RESEARCH CENTER」では異業種とのコラボレーションを推進し、木材の新たな可能性を追求しています。同社のショールーム兼ギャラリー・スペース「Karimoku Commons Tokyo」で、これらの取り組みを牽引する取締役 加藤英一郎さんにお話をうかがいました。

Person

カリモク家具株式会社 取締役

加藤英一郎

2021年にカリモク家具入社。幼少期から、祖父(2代目社長加藤英二氏)に連れられて工場に通っていた。森林組合が主催する間伐・伐採体験などに参加する中で、自分にとって身近な家具業界で林業の課題に貢献したいと、家業を継ぐことを決意。大学卒業後数年間は人事・組織系のコンサルティング会社で経験を積み、カリモク家具入社後は社員研修や人事制度、マニュアル類の整備に従事。カリモク家具の新しいブランド運営にも携わっている。

木を余すところなく活かし、家具だけでなく「木とつくる幸せな暮らし」を提案する会社に

――近年、御社はこれまで家具には使いづらい「未利用材」を活用した家具ブランドを立ち上げるなど、サステナビリティ活動を強化されています。その背景や狙いについて教えていただけますか。

 近年、グローバルな価値基準として「サステナビリティ」が重視される時代となり、未利用材の活用といった当社の取り組みに注目していただくことは大変ありがたく感じています。ただ、カリモク家具のこうした姿勢は、時代の要請に応えるためだけのものではありません。我々には、社会に合わせた変化だけではない背景があります。

 と言うのも、当社は創業期から“自然の恵みである木に感謝し、余すところなく活かす”ことを大切にしており、今で言うサステナブルな活動を地道に積み重ねてきたという自負があるからです。

 その背景にあるのは、カリモク家具が置かれた地理的条件と、そこから生まれた独自の歴史です。たとえば家具産地として有名な福岡の大川地区は、かつて水運が盛んで、日田地区の良質な木材を使う船大工が数多く活躍していたことがその原点にあります。飛騨や旭川など有名な家具産地もそれぞれの地域資源に根ざした物語を有しています。 

 それに対して、愛知を拠点とするカリモク家具は、森林から離れた立地であるため、遠隔地から木材を調達せざるを得ませんでした。そのため創業当初から、極力無駄を出さない製造方法を追求してきました。木材は幹の表皮や枝、節目など使いづらい部材が多く、家具として使える部材は2~3割程度に過ぎません。しかし当社では、出来る限り多くの部材を活用するための工夫を通じて、さまざまな加工技術を蓄積してきました。

――森林資源が豊富でなかったからこそ、「余すことなく活かす」という文化と技術が育まれたのですね。

 はい。ただ、我々はそうした考え方や企業文化が当たり前に根付いていたためにこれまできちんと言語化してきませんでした。お客様をはじめ当社を支えていただいている皆様に、当社の姿勢を明確にお伝えするために、2022年にグループミッションとして「木とつくる幸せな暮らし」という言葉を定めました。根底にある考え方は創業以来変わりませんが、この言葉には、長い年月をかけて成長してきた木に感謝し、その価値を最大限引き出し、持続可能なものづくりを続けていくという決意を込めています。

――「木とつくる幸せな暮らし」にはどんな思いが込められているのでしょうか。

 社内の議論で大きな時間を割いたのは「我々は何者なのか」「何のために存在しているのか」というテーマでした。

 当社は1940年代に創業者の加藤正平が愛知県刈谷市で開いた木工所が起点です。その後、刈谷木材工業株式会社を設立し、地場産業であった紡績機やミシンの木製部品やピアノの鍵盤などを製造しました。1960年代からは自社ブランドによる家具の製造を始め、以来60年以上にわたって家具の製造販売を生業としています。「カリモク」という社名は、この前身の企業の名称に由来しています。

 では我々は、家具屋として家具を買ってもらうことが目的なのか。改めて考えてみると、我々がめざしてきたのは、木材を活かした製品を通じて“お客様の暮らしに価値をもたらす会社”です。家具はそのための一つの重要な手段であり、さまざまなカテゴリーで木材を活用しながら「生活をこんなに豊かにしますよ」と提案する会社でありたい、お客様の幸せをサポートする存在でありたい――「木とつくる幸せな暮らし」にはそんな想いを込めています。

確かな材料で、メンテナンスしながら長く使い続けられる製品を

――「幸せな暮らし」を実現するために、具体的にどんな取り組みに注力していますか。

 「豊かさ」や「幸せ」は人によって異なります。当社はさまざまなブランドを展開しており、それぞれのブランドがストーリーを持っています。

 たとえば、「Karimoku Case(カリモクケース)」というブランドがあります。これは、国内外の建築家と共に「空間から考える家具」というコンセプトで製品を開発しています。建築家が特定の空間のために発想し、デザインした家具を製品化していく――これが『カリモクケース』の一貫したテーマです。実際に使われる環境との関連性から家具を捉えることで、日常に自然になじみ、共に暮らすのに快適なものが生まれます。建築とインテリアを一体化として考えるこのアプローチは国内外の市場から高い評価を得ています。

 このように当社のブランドはそれぞれに独自の魅力を追求していますが、共通しているのは、木の素材を活かしたデザインと、手間を惜しまずつくり込んだ品質、そして耐久性を併せ持つ、愛着をもって長く使っていただける家具であることです。木材は非常に面白い素材です。硬く耐久性がありながら、鉄より加工しやすく、触れると温かみのある手触りが感じられます。木目の揺らぎは見る人に安心感を与えてくれます。このように、工業的な加工のしやすさや柔軟性という物性を持ちながら、同時に人の感性に働きかける手触りや香りを備えている、そこが木材の大きな魅力です。この魅力を最大限に活かす家具づくりはどのブランドでも共通しています。

 そのなかで、木材を余すことなく活用し長く使っていただける家具をつくることは、木材資源を大切に扱い続けてきた当社の提供価値の中核を成すものです。樹齢50~60年、場合によっては100年を超えるものがあります。これほど長い年月をかけて育った木を使っているのですから、木が森で過ごした時間と同様に長く愛用いただける家具をつくっていかなければならないと考えています。

 そのためにも、木材のトレーサビリティを重視しています。どの国の、どの地域の、どんな自然環境で生まれ育った木でこの家具がつくられているのか――木材の魅力や加工技術はもちろんのこと、世界の森林問題への向き合い方を含めて、お客様の「幸せ」につながるストーリーを語れる家具をつくることが、カリモク家具の重要な社会的使命だと考えています。この姿勢は、グローバルな事業展開においても、変わりません。

――「長く使える家具」は消費者にとってはありがたいですが、企業としては「モノづくりの理想」と「ビジネスの持続性」という相反する問題があるのではないでしょうか。

 おっしゃる通りです。デザインはともかく、品質と耐久性を併せ持つ「良い家具」は、突き詰めていくと一人のお客様が一生のうちに1回か2回しか買わないということになります。長く使える家具をつくればつくるほど、購入機会は少なくなります。

 そこでカリモク家具は、愛着を持って使っていただいた家具をさらに長く使っていただくためにメンテナンス事業も行っています。木材部分はほぼ問題なく使えますが、ウレタンや張地などは10年15年使用するとどうしても破れたりひびが入ったりすることがあります。そうした部分を修繕することで、また心地よく使っていただけるようサポートしています。実際、メンテナンスの依頼は年々増えており、お客様に長く寄り添う当社の姿勢は顧客満足度の向上にも繋がっていると考えています。

国産未利用材に価値を与え、林業者を支えることで森林資源の循環を促す

――「森林問題への対応」というお話が出ましたが、御社は「木を扱う企業」として森林資源の持続可能性に深く関わるお立場です。課題をどう捉えていますか。

 日本の樹木は主に建材・構造材に用いられる針葉樹と、家具などに用いる広葉樹に分かれますが、いずれも森林資源の循環利用――伐採して・使って・植えて・育てるというサイクルが十分に機能していない状況にあります。その結果、森林の荒廃や、CO2吸収能力の低下、災害リスクの増加、地域経済の停滞といった深刻な諸問題が生じています。

 針葉樹については、戦後に植林された木が伐採に適した樹齢を迎えているものの、日本の針葉樹の需要が減ったことで値段が下がり、林業者の採算が合わなくなっています。日本は山が多く、伐採には重機で入って切り、下まで運び出し、製材所まで運んでスライスするという工程が必要です。それだけで相当な費用がかかり、重機の燃料費や人件費も必要です。こうしたコストを負担できる林業を継続するためには、杉や檜などの豊富な森林資源を使ってどのような価値を生み出せるか、我々家具メーカーも含めて新たな需要を創出していくことが必要になります。

 一方、広葉樹は、一つの山でもナラや桜、栗などさまざまな樹種が混在して植生しています。我々家具メーカーは「強度のあるナラ材が欲しい」という場面が多いのですが、ナラだけを選んで伐採することはできません。その結果、ナラ以外の樹種は伐採されても大量生産には不向きであるため、多くが安価なチップに回されたり、そのまま捨て置かれたりしています。

――課題解決に向けてどんな取り組みをしていますか。

 木材サプライヤーが安定して供給できる体制を構築することが極めて重要です。そこで当社は、資源循環のサイクルを促すために価値共創を進めており、契約したサプライヤーからは主力のナラ材以外も樹種を問わず適正な価格で買い取り、家具など製品に活用していく取り組みを行っています。

 また、建材として用いられる針葉樹についても、地面から2mほどの部分は建材としては活用されないことが多いですが、当社ではその短い部分も購入し、家具用材として活用しています。建材よりも短い寸法で済む家具であれば、十分に利用できるからです。

――すばらしい取り組みですが、ビジネスに落とし込むのは難しいのではないでしょうか。

 もちろん簡単ではありませんが、木材の有効活用については当社が長年培ってきた知見やノウハウ――「フィンガージョイント」や「積層構造」「小幅接着」などの基盤技術を活かし、木材の多様な個性を活かした家具づくりを進めています。

フィンガージョイント:短い木材同士を縦につないで長い材料にする技術。

積層構造:木を用いたサンドイッチ構造のこと。表面部分は良質な木材を薄くスライスして使い、内部には強度がありながらも見た目が劣り価値がつきにくい材料を使うことで、効率よく資源を活かす。

小幅接着:幅の狭い木材(小幅材)を複数枚接着して、より広い板材を作る技法のこと。

 
 また、こうした木の特性を活かした製品づくりをするなかで大切にしているのが「ナチュラルマーク」です。天然の木材は育った環境や日当たり、気候変化などの影響を受け、さまざまな表情をもちます。同じ木から取った板でも、白っぽいものから赤みのあるものまでさまざまです。木目も直線的なものからうねりのあるもの、節目があるものまで多種多様です。私たちは、こうした木材に自然に表れる模様や特徴的な痕跡を「ナチュラルマーク」と呼び、欠点ではなく天然素材がもつ唯一無二の個性、味わいと捉えて製品づくりに活かしています。

 現代は、人間も一人ひとりの「らしさ」が尊重される時代。同様に、木材の色も木目も節目も、その木が生きてきた証であり、個性です。それを木の魅力として受け入れ、楽しみながら、素材として活かしていきたいと考えています。

 このように、あらゆる木材を家具用材の価格で買い取ることで、山側のサプライヤーに安定した収入をもたらし、林業の持続可能性を支えることができます。同時に、我々家具メーカーも製品としての個性を打ち出せ、炭素の固定化にわずかながらでも貢献できます。こうした良いサイクルを回していきたいと考えています。

 そうした取り組みを象徴するブランドが、「Karimoku New Standard(カリモクニュースタンダード)」と「MAS(マス)」です。

2つのブランドについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。     
森林資源の循環を促進する、国産未利用材を活用した家具ブランドの運営

カリモク家具ならではのストーリーを伝え、共創できる場を

――木の特性を活かした製品づくりとともに、新しいコンセプトのショールームや家具メーカーには珍しいリサーチセンターなど、これまでにない取り組みを進めておられます。その考え方や意図について教えてください。

 キーワードは、さきほどもお話ししましたが、「ストーリー」です。さまざまな創意工夫を通じて美しさや品質、耐久性など家具本来の価値とサステナビリティという価値を追求していますが、これらをお客様や社会に認識していただき、企業価値を高めていくためには、カリモク家具ならではのストーリーをしっかりとお伝えすることが重要だと考えています。

 例えばショールームについてです。従来はジャンルごとに製品が並んでおり、比較しやすく接客もしやすい配置でしたが、『木とつくる幸せな暮らし』を提案する場としては不十分でした。お客様は家具そのものを見るために来られたとしても、考えているのは『この家具があることでどんな生活ができるだろう、どんな過ごし方ができるだろう』というライフスタイルなのです。

 そこで、ここ「Karimoku Commons Tokyo」では、空間全体を小物も含めてひとつの生活シーンとしてしっかりデザインし、配置することで、木の質感や塗装技術など家具としての価値だけでなく、空間全体がもたらす価値を感じていただけるようにしました。お客様自身のストーリーを具体的にイメージしていただける場となっていると思います。

 また、2024年10月に開設した「KARIMOKU RESEARCH CENTER」では、木材加工を強みとした“ライフスタイルブランドとしてのカリモク家具”を模索していくために、国内外の企業やアーティスト、クリエイターなど、業種を問わず木材を使ったコラボレーションを進めています。当社が培ってきた木材加工の技術力を広く活用し、さまざまなステークホルダーと共創して木の可能性を深化させる場所にしていきたい。そんな思いで”リサーチセンター”と名付けました。実際に他業界の企業やクリエイターとのコラボレーションの推進に繋がっています。

 展示スペースでは、家具のアーカイブや木工、塗装技術、多種多様な木材などのサンプル展示のほか、「Survey(調査)」と題した共創プロジェクトなどを通して、家具づくりを超えた新しい価値創造の拠点として活用しています。

 一方、社内に対しても「お客様のライフスタイルを提案する企業」の一員として、より高い視座を持って目の前の家具づくりに取り組んでほしいと常に呼び掛けています。機械を動かして木を削ることは高い技術力と根気が必要ですが、自らの技術を存分に活かしつつも、常にお客様がどんな暮らしをされているかを考えてほしい。働く意志や目的をより大きな価値創造に向けてほしいと思っています。

 結果としてそれが本物思考とか素材を大切にするということにつながっていく、先にある人々の暮らしの豊かさにもつながっていくということだと考えています。

――最後に、未来のカリモク家具の経営を担う立場として、ステークホルダーの方々にメッセージをお願いします。

 最も望んでいることは、木材というマテリアルの可能性を追求し、サステナブルにその用途を広げていく姿勢が「洗練されている」「スタイリッシュ」だと思われるような社会になることです。

 日本は南北に細長く、暖流と寒流に恵まれ、生態系が豊かで木材の種類だけでも約1,200種類あります。日本人は古来から、耐水性の強いヒノキは湯舟やまな板に、抗菌作用が強いヒバは入浴剤や芳香剤に、軽くて耐火性のある桐はタンスに、と多種多様な木材をさまざまな形で使い分けてきました。

 これらは近年、プラスチックに代わってきましたが、サステナビリティが問われる時代においては、この豊かな生態系を残し、活かす知恵や技術が求められています。そうした知恵や創意工夫が尊重される社会になってほしいと心から願っています。

 もちろん、それは我々だけで成し遂げられるものではありません。さまざまな方々と一緒に、その可能性を広げていきたい。「Karimoku Commons」や「KARIMOKU RESEARCH CENTER」を開設したのも、カリモク家具のこうした姿勢を多くのステークホルダーに共感していただき、共に考え、創意工夫していきましょうというメッセージなのです。

取材後記

 加藤さんのお話をうかがっていく中で、カリモク家具は“家具”に限定せず、より多くの価値を創造するために新しい取り組みにも挑戦し続けているという印象が強くなりました。何十年何百年かけて育った木を使用する立場として、長く使い続けられる製品をつくることを大切にしながら、木材の特性を熟知し、いかにして木の価値を高めて人々の幸せな暮らしに貢献していけるかを考え続けているのだと感じました。
 木と人に向き合い、幸せな暮らしとはどういったものかを追求することにより、自ずとサステナビリティにも貢献できるという、単なる押し付けではないもっと先を見据えた姿勢にも感銘を受けました。自社だけで解を出そうとせずさまざまなアプローチにも挑戦し続けるカリモク家具の在り方から学ばせていただいたことを、今後の学びや成長に活かしていきたいです。 

千葉大学 工学部デザインコース3年 川原綾華

取材の様子は、下記の記事で紹介しています。合わせて是非ご覧ください。

学生インタビュアーが、カリモク家具様の取材に参加

カリモク家具株式会社

カリモク家具の起源は、創業者の加藤正平が長年続く材木屋を引き継ぎ、愛知県刈谷市で小さな木工所を始めた1940年に遡る。さまざまな木製品を生産することで技術を磨き、1960年代に入ると、自社製の木製家具の販売を開始。高度な機械の技術と職人の技を融合させる「ハイテク&ハイタッチ」という製造コンセプトを掲げて木材生産分野における土台を作りあげ、日本を代表する木製家具メーカーへと成長を遂げる。

https://www.karimoku.com/

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