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株式会社バンダイナムコホールディングス  株式会社ユナイテッドアローズ  日本航空株式会社 

座談会:サステナビリティ担当者たちが挑む 「ファンと共に創る未来」

キーワード:サステナビリティ経営/社内浸透/IP・ブランド活用/リサイクル/SAF

サステナビリティ活動は、どうすれば社内に浸透し、さらに顧客やファンの共感を得て、自主的な参加を促せるのか──業界の異なるBtoC企業3社が集まり、現場のリアルと未来への挑戦を語り合いました。登場するのは、バンダイナムコホールディングス様、日本航空(JAL)様、そしてユナイテッドアローズ様です。理想論だけでは動かない人の心を、どう動かすのか――そのヒントが詰まった座談会です。

Person

株式会社バンダイナムコホールディングス  グループ管理本部 サステナビリティ推進部  サステナビリティ推進チーム  マネージャー

平  秀之

ナムコに入社後、アミューズメント店舗運営、環境事業会社での企画開発、業務用ゲーム機のグリーン調達、広報などを経験。2022年4月から現職。CSR・環境領域25年のベテラン。グループ全体のサステナビリティ戦略立案から社内啓発まで統括。

Person

株式会社ユナイテッドアローズ  経営戦略本部  サステナビリティ推進部  部長

玉井  菜緒

1999年入社、情報システム部門を経て、2004年頃から環境担当に。高校時代から環境問題に関心を持ち、社長への直訴で担当者となる。以来20年、サステナビリティ推進に従事。会社方針・戦略立案、社内啓発を担当し、着実な歩みを続ける。

Person

日本航空株式会社  ESG推進部  企画グループ  グループ長

福田  進之助

2013年中途入社。羽田空港業務、レベニューマネジメント、地域活性化新規事業、九州支社総務を経て、2025年4月から現職。サステナビリティ担当8カ月の新任ながら、グループ全体の推進・取りまとめ、投資家対応などを担当。

Person

日本航空株式会社  国産SAF推進タスクフォース  部長

喜多  敦 

2003年入社。整備士5年、整備計画15年を経験。「環境なんてめんどくせえな」と思っていたが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の世界観に惹かれて、2023年にSAF担当の公募に応募。現在は「環境おじさん」としてSAFの認知拡大に奔走。

第一部:それぞれの「らしさ」を武器に

――まず各社のサステナビリティ活動の特徴からお聞きしたいと思います。

平: 私たちがよくトップから言われるのは、「バンダイナムコはエクセレントカンパニーじゃない」ということ。「バンダイナムコしかできない、バンダイナムコらしい取り組みをしよう」と言われています。その答えの一つが『IPを活用した取り組み』です。例えば、パックマンが海のゴミを食べて海を綺麗にする動画があるのですが、ポスターに「海を綺麗にしよう」と書いてあるのと、この動画と、どちらが心に残るか。IPには言葉がいらない。言語に関係なく伝わる力があるんです。

――具体的にはどんな活動を?

平:例えば、全国の自治体と一緒にアイドルマスターやガンダムのデザインマンホールを設置しています。ファンの方々が「聖地巡礼」として各地のマンホールを訪れ、SNSで発信することで、地域への関心が高まり、観光や地域経済の活性化につながっていく――IPに興味がなかった方、脱炭素や環境なんて自分には関係ないと思っていた人たちが、IPの力で「ちょっとやってみようかな」と思ってくれる。ファンの皆さんと共に楽しくサステナブル活動を進めることが、私たちの最大の特徴です。

玉井:当社は長期ビジョンで「美しい会社ユナイテッドアローズ」を掲げています。大量生産・大量消費を前提とした売上拡大志向から脱却し、限られた資源で最大限の企業価値を創出する。これをビジョンに明文化しています。特徴的なのは、サステナビリティ活動に「SARROWS™」というネーミングとアイコンをつくり、ブルーで統一したこと。ファッションブランドのようなイメージ戦略です。

――マテリアリティは16個から3つに再編されたとか。

玉井:はい。最初は抜け漏れのない網羅性を重視して5つのテーマと16のマテリアリティをつくったんですが、多すぎて覚えられなくて(笑)。実効性を考えると、わかりやすさと「らしさ」が大事だと気づきました。そこで、資源や製品がどれだけ循環して使われているかを示す「サーキュラリティ」と、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」、そして「ヒューマニティ(人権)」の3つに再編集し、9つの指標と数値目標を設定しました。

福田:私たちは、コロナを経て大きく考え方を変えました。航空会社の提供価値は「移動」そのものではなく、移動の先にある「新しい関係やつながり」なんだと。それを定量化したのが「関係・つながり総量」です。JALマイレージバンクの会員で、年間2回以上特定の場所に行かれた方を「関係人口」と定義し、その移動を可視化しています。

喜多:一方で、航空機からはどうしてもCO2が出てしまう。だからSAF(持続可能な航空燃料)が経営の一丁目一番地になっているんです。

――しかし、一般の方にSAFを理解してもらうのは大変そうですね。

喜多:ええ。SAFって技術的には廃食油からつくれるんですが、深くて難しい。だから「知ってもらう活動」として「すてる油で空を飛ぼう®」を始めました。専用ボトルをつくって、スーパーに回収ボックスを設置。家庭の使用済み油を持ってきてもらうんです。最初は苦労しました。店長さんからは「こぼすだろう」「匂いがするだろう」と断られて。でも、あるスーパーの店長が「じゃあ俺の店でやれよ」と一肌脱いでくれて。一般の方からも理解いただけたようで、開始時には月1〜2店舗で展開していたのですが、1年ちょっとで月30〜40店舗に増えました。

第二部:ファンの心を動かすもの

――SAFといえば、スポーツチームとのコラボレーションも面白いですよね。

喜多:はい、浦安D-Rocksというラグビーチームと組んで、ファンが持ってきた油でSAFをつくって、選手の合宿フライトを脱炭素化しました。ファンが自分たちのチームを支えるのと同時に、サステナビリティの観点でも支えるという世界観をつくっています。

平:我々もファンと一緒にサステナビリティを進めることを大事にしています。その代表的な取り組みが、ガンプラリサイクルプロジェクトですね。プラモデルをつくった後のランナー(枠の部分)を回収してリサイクルする取り組みです。ただプラモデルは自宅でつくるものです。回収場所であるナムコの店舗にわざわざ持ってきていただけるのか?実は、プロジェクト開始時は、一部で「ノベルティを渡さないと持ってこないのでは?」という意見も出ていました。しかし、担当スタッフが「そういうものじゃない。ガンダムを好きな人たちは自分たちがプロジェクトに参加しているという心がすごく強い」と。

玉井:結果はどうでした?

平:初年度から目標10トンを超えて12トンを回収。年々増加しています。環境負荷を考慮して店舗を回るトラックの空き便を活用して回収しているため、回収拠点がなかなか増やせないのですが、一人当たりの量は増えている状況です。

喜多:それ、まさに僕らの油のプロジェクトと同じですね。僕らも「インセンティブをあげよう」という話は何度も出たんですが、全部却下しました。理解してもらってやる、それが継続の鍵だと。

――ユナイテッドアローズさんは、「環境配慮商品の売上を2030年に50%にする」という目標を掲げていますね。

玉井:従来品よりもかなり高価な素材をどう売るのかというのは、正直、適切な解はまだ出ていません。例えばSpiberという山形県のベンチャーが開発した人工タンパク質素材は、環境負荷が低いのはもちろん、天然素材に近い馴染みやすさがあるなど、質も良いです。ですが、「環境にいいです」とストレートに伝えても、それに価値を感じてご購入いただけるお客様は一部なんです。この状況は20年を振り返っても、あまり変わっていません。

喜多:正面突破は難しいですよね。相手の気持ちに立って、何が嬉しいと思うのか。手を変え品を変え、きめ細やかな対応が必要だと思います。

玉井:おっしゃる通りです。衣類回収もそうで、「お洋服を捨てるって罪悪感がある」というお客様のお悩みに応える受け皿として機能しています。当社では使用済み衣類を店舗で回収し、リユース・リサイクルする活動に取り組んでいます。実は、お洋服の場合は可燃ごみで無料で、それほど面倒なく処分できるルートがあるんです。それでも「心理的に捨てづらい」というお声が多く寄せられています。

――インセンティブは?

玉井:正直に申し上げると、当社の場合はインセンティブを出しています。喜多さんや平さんの話を聞いて、ちょっとお話しづらいんですが…(笑)。ただ、お客様にとっては、環境にもいい形でつなぐことができるという体験そのものが大切だと思っています。実際に行動していただいた経験がお客様に残る。何か体験をしてみると、聞いただけの知識とは違う何かが残るんですよね。そういった選択肢を、我々はたくさんお客様にお見せしたいと思っています。

第三部:社内を動かす「浸透」と「共感」の戦略

――外部への発信も大事ですが、社内の理解も不可欠です。JALさんは、社内浸透の現状はどうですか?

福田:2025年の9月から11月にかけてグループ全社員を対象に初めて調査しました。結果は、環境の取り組みは比較的わかりやすく、各職場で環境目標をつくってPDCAを回しているので認識されていましたが、サプライチェーンの人権問題などはあまり認知されておらず、おのずと共感度が低かったです。しかし、意外だったのは社員の期待度が高かったことなんです。「もっと知りたい」という声が多くて、「短くて見やすいコンテンツを頻度高く提供すると、理解・共感が得られやすい」という声も出ました。

――バンダイナムコさんは3年前にアンケートを取られたそうですね。

平:はい。結果は散々でした(笑)。「知らない」「聞いたことあるけど知らない」がほとんどで、経営企画部や総務部の仕事と考えている等、サステナビリティは自分には関係ないと感じている、他人事にとらえている社員が多いという状況でした。また、世の中からバンダイナムコのサステナビリティはどのように見えているのかということを把握しようと、ブレーンセンターさんに協力いただいて大学生の共感度調査を実施しました。ある大学生の皆さんに当社の統合レポートやサステナビリティサイトを見てもらい、正直な印象や感想などを尋ねるといったものですが、正直に…とはいったものの、「将来の課題解決に向けたロードマップが見えない」「クリエイターに対する支援はどうなっているのか?」「社員の働きやすさが見えない」といったような予想以上に厳しいコメントをいただきました。そのインタビューの様子は動画で撮影していたのですが、当時のCSOの意見もあり、国内グループ各社の取締役に全てカットせずに見てもらったんです。終わった時は会議室がシーンとなりましたね。でも、私たちのユーザーであり、ファンであり、将来の仲間かもしれない大学生たちから言われたことは、心に響くものがあったようで、この後から各社の社長の年次方針発表会に「サステナビリティ」という言葉も入るようになりました。

――社内浸透で工夫されていることは?

平:エンタメ企業の気質なのかもしれませんが、どんなに正しいことでも、楽しくないことには参加してもらえないんです。トップも「サステナビリティも楽しく!」と言っています。例えば、私たちは「サステナビリティWEEK」という社内イベントを毎年開催しています。1週間集中的にサステナビリティに関する施策を実施して、社員の「気づき」「きっかけ」につなげることを目的にしたイベントですが、ゲストに古坂大魔王さん、米良美一さん、COWCOWさんといった著名人にも参加いただきました。サステナビリティに興味がなくても、米良さんの歌を聞きたいから参加する、という人もいらっしゃいましたね。

玉井: 面白いですね。

平:今年は「バンダイナムコのサステナ博」という展示会もやりました。会場ではアミューズメント施設のスタッフが応対してくれたのですが、いつもの店舗と同じように笑顔で接客してくれていました。スタッフにとってみれば当たり前のことかもしれませんが、「皆さんの日々の取り組み、お客様の笑顔をつくる活動も、『笑顔を未来へつなぐ』というバンダイナムコのサステナブル活動の一つなんですよ」と説明すると、「サステナビリティはエコってイメージが強くて…私たちの業務も実はサステナブル活動につながっていたんですね!」とおっしゃっていただきました。今では「これもできるんじゃないか」と現場から色々なアイデアが出てくるようになりました。地域の中学校や小学校の職業体験を自主的にやったり、店舗で空カプセルでハンコをつくるサステナイベントをやったり、とさまざまな活動が広がっています。

玉井:平さんの話、ぜひ、うちでもやってみたいなと思いました(笑)。私たちも取り組みの中心になるのは推進部門ではなく、会社の全部門の全従業員だと思っています。各自がビジョンと目標、自分の事業部とのつながりを理解し、自ら何をやるべきか考えて行動する。この状態をつくれると、活動は持続可能性を持ち、目標も達成できます。

――すでに具体的な活動を始めているのですか?

玉井:セミナーやワークショップで知識・マインドをつくって、各部門に入り込んで対話しながらサポートして、ルールや基準を定めて環境を整えることをしています。そして、定期的に成果を可視化することにしています。特に効果的なのが表彰制度です。年1回、全店の店長と幹部社員が集まる場で「サステナビリティ推進賞」を設けています。店舗での活動を表彰することで、認知とモチベーションが上がり、実際に数値も良くなっています。

福田: 行動を称賛するのは大事ですね。

第4部:「好き」と「かっこいい」が世界を変える

――最後に、今日の感想と今後に向けて一言ずついただけますか。

喜多: バンダイナムコさんは、IPもそうですが、会社の名前からして特に若い世代はみんなが知っている。こういうこともさることながら、みんなを引っ張っていく力がすごくある。これが日本だけじゃなく全世界に普及している、それがバンダイナムコさんの一番のポイントだと思います。手前味噌ですが、我々にもそういうところがあって。中にいると外から見えている自分たちが意外と見えていない。社外の人と話すと、JALのことをこう思ってくれているんだなと気づきます。バンダイナムコさんの持っている力、売上じゃわからない影響力。そういったところに、できれば僕らも一緒に乗らせてもらいたいなと思っています。

福田: ユナイテッドアローズさんのお話で、「何のための社内浸透なのか」という定義をしっかりされているところにハッとさせられました。経営者や社員が、なぜサステナビリティを理解し実践しないといけないのか、その腹落ちさえできれば進むのかなと。バンダイナムコさんは、やはり楽しい会社でいらっしゃる。社内イベントを楽しくやられているところは、我々にはない素晴らしさです。我々だけではつくり出せないので、その辺りで一緒にやらせていただけると力になるなと思いました。

玉井: 業種も規模も異なる中でも、共通する部分がたくさんあると感じました。バンダイナムコさんは、やはりエンターテインメントを生業とする企業らしさがサステナビリティにも表れていると思いました。「好き」という力はすごく強い、ということを再認識しました。ガンダムなどのキャラクター、「かっこいい」をきっかけにサステナビリティに興味を持つアプローチ。我々の服を好きでいてくださるお客様もいますが、キャラクターではないので、それをどう活かせるのかが今日の宿題だと思いました。

平:今日お話を聞いて、BtoC企業として、サステナビリティの要素が商品の付加価値に大きな影響を与えるかというと、取り扱う商品・サービスにもよると思いますが、そうではない現実が共通しているなと感じました。今回をきっかけに、ぜひ今後も「実はこういうことに悩んでいる」ということを共有できればと思います。これから将来に向けて、脱炭素や人権といった今ある課題だけでなく、新しい問題も出てくると思うのですが、どんなことであっても楽しく取り組んでいけたらと思っています。

――本日は、ありがとうございました。

取材後記

    座談会を通じて見えてきたのは、BtoC企業におけるサステナビリティの「リアル」です。環境配慮は付加価値になりにくい。コストは2倍、3倍になる。加えて、社内の理解も道半ば…それでも3社は、それぞれの「らしさ」を武器に、確実に前進しています。バンダイナムコのIP、ユナイテッドアローズのブランド力、JALの信頼とネットワーク。そして何より「ファンの心」「お客様の課題」を起点に考える姿勢。インセンティブに頼らず、本質的な共感を求める勇気。「好き」と「かっこいい」が人を動かします。喜多さんの「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の世界観に惹かれた」という言葉が象徴するように、サステナビリティは義務ではなく、ワクワクする未来への挑戦なのです。

(株式会社ブレーンセンター KA)

株式会社バンダイナムコホールディングス

"Fun for All into the Future"をパーパスに掲げ、エンターテインメント領域でグローバルに活動するバンダイナムコホールディングス。ゲーム、トイホビー、映像音楽、アミューズメント施設など多角的に事業を展開し、世代を超えて愛される多数のIPを保有している。近年は「笑顔を未来へつなぐ」というスローガンのもと、サステナビリティ経営にも注力。IPを活用し、ファンを巻き込んだ環境保全活動などを通じて、エンターテインメントの力で持続可能な社会の実現に貢献している。

https://www.bandainamco.co.jp/

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株式会社ユナイテッドアローズ

1989年創業。独自のセンスで国内外から調達したデザイナーズブランドとオリジナル企画の紳士服・婦人服、および雑貨等の商品をミックスし販売するセレクトショップを運営する。サステナビリティ活動「SARROWS™」を推進し、「循環するファッション」「カーボンニュートラルな世界へ」「健やかに働く、暮らす」という3つのテーマのもと、2030年に向けた具体的な目標を設定。環境配慮型商品の拡大や衣類回収キャンペーンの開催など、ファッション業界における持続可能な未来の実現に取り組んでいる。

https://www.united-arrows.co.jp/

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日本航空株式会社

日本の航空会社として最も長い歴史を持ち、国際線・国内線ともに幅広いネットワークを誇る。2021年に発表した「JAL Vision 2030」では、「安全・安心」「サステナビリティ」を成長エンジンに位置づけ、ESG戦略を経営の中心に据える。2050年までのCO2排出量実質ゼロを目指し、持続可能な航空燃料(SAF)の導入拡大や使い捨てプラスチックの削減、次世代育成プログラム「空育®」など、航空運送事業を通じた社会課題の解決に積極的に取り組んでいる。

https://www.jal.com/ja/

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