Perspectives

「ビジネスのちから」で環境・社会課題を解決する
“新しい視点”を。

株式会社エスプールプラス 

雇用する側とされる側、双方がハッピーになる障がい者雇用支援で、不平等や貧困をなくしたい

キーワード:障がい者雇用支援/わーくはぴねす農園/ダイバーシティ

多くの企業がサステナブル経営に取り組み、ダイバーシティに関する意識も定着しつつあるなか、障害者雇用促進法で定める法定雇用率も2.3%まで引き上げられています(2022年9月時点)。ところが、一部の障がいのある方々――とくに知的障がいのある方は未だ就業機会に恵まれない、という現実があります。こうした中、人材ビジネスを中心に手掛けるエスプールグループの株式会社エスプールプラスは、自社が所有する農園を複数の企業に賃貸し、企業に雇用された障がい者が働く「わーくはぴねす農園」という新たなビジネスモデルを展開。主に知的障がいがある方の雇用促進に貢献しています。多様性の尊重が叫ばれる現在もなお残る障がい者雇用の課題と、その解決を目指す同社は、どんな想いでこのビジネスに取り組んでいるのでしょうか――。20代半ばという若さで東海エリア営業の責任者となった長澤真珠さんに詳しくお話を伺いました。

Person

株式会社エスプールプラス わーくはぴねす農園事業部  
障がい者雇用支援グループ チーフ

長澤 真珠

大学在学中にアルバイトで貯めたお金で留学や旅行に行き、14カ国を訪問、現地の文化に触れるとともに人々と交流を深める。「自分の働きが会社の利益に直結する実感を得たい」との想いから、会社の規模にこだわらない就職活動を行い、2019年4月、エスプールグループに新卒入社。シニア世代の新しい働き方の提案や障がい者の雇用機会の拡大など、社会課題の解決につながる業務に従事する。同僚から「各部署で取り合いになる人材」と評されるほど1年目から優れた営業成績を収め、3年目にして、エスプール史上最年少で東海エリア営業の責任者に抜擢される。

ベンチャー志向の会社で、ゼネラリストになりたい

――エスプールに入社を決めた理由は、何でしょうか。

 大学3年生の12月に参加した合同企業説明会では、多くの大企業が「当社の経常利益は伸び続けています」「安定した生活基盤が築けます」「大きな仕事ができるのがやりがいです」と、似たようなことを話されており、自分の心に刺さるものが見つかりませんでした。いくら聞いても、どこか“もやもや”した感じが残っているようで…。

  たぶん、自分の働きがどのように会社の成長に直結するか、それが見えなかったことに違和感を持ったのだと思います。それに気づいてからは、就活の方向性を“ベンチャー”へと完全にシフトし、特定の分野でプロフェッショナルになるより、スタートアップや成長が期待できそうな中小企業で、何でも自分でこなすゼネラリストになりたいと思うようになりました。また、BtoCの仕事は学生時代のアルバイト経験などを通じてイメージできていましたので、まだ知らない世界として、ビジネスパーソン同士が交渉し合うBtoBの法人営業に魅力を感じていました。そこから絞り込んでいって、最終的にエスプールに入社することを決めました。

――最初の配属先での仕事内容について教えてください。

  第一希望が法人営業であることを伝えていたこともあり、最初の配属は希望通りエスプールの「プロフェッショナル人材バンク」で法人営業を担当することになりました。プロフェッショナル人材バンクは、勤め先を退職されたシニアの方がフリーランスとして起業された際などに、会社勤めの時とは異なる新しい働き方を一緒に創り上げていくという事業です。もともとエスプール自体が就職氷河期世代の雇用支援を目的に起業したソーシャルベンチャーですから、エスプールグループの事業理念を理解することに役立ちましたし、実際にシニア人材の活用は日本社会の大きな課題になっていますので、事業を通して社会課題を解決するやりがいなど、会社の魅力の一端に触れることができたと思います。

  希望通りの部署でモチベーションも高かったこともあり、1年目から売り上げ目標も大きく上回ることができ、自分の働きが会社の成長に役立っていると実感することができました。

障がい者雇用に携わって、本当の意味で社会課題を実感

――エスプールプラスに配属になったときは、どのような気持ちでしたか。

 異動の発表があるタイミングではあったのですが、私自身はまだ2年目でしたし、正直な印象としては「驚き」以外にありませんでした。一方で、エスプールプラスは、自社が所有する農園を複数の企業に賃貸し、企業に雇用された障がいのある方が働く「わーくはぴねす農園」というビジネスモデルを展開しており、知的障がい者の雇用促進という日本の社会課題解決に貢献しています。そうした社会的意義を強くもった会社で働くことに「これは、もっと仕事をがんばらなければ!」と前向きな覚悟を持ったことを覚えています。また、エスプールプラスはグループの中で最も営業力に長けているという噂が耳に入っていましたし、社長自身が「社会を変えていくぞ!」という熱い想いを持った人だと知っていたので、自分に合っているのではないかと思いました。

 ただ、これまで障がいのある方と関わる機会が多い方ではなかったので、その点で多少の不安がありましたが、配属後、農園で約2ヵ月という長期間、有資格者のもとで障がいのある方に対する理解を深めるための研修を受けたことで、結果的に、スムーズに業務に入ることができました。

 研修では、実際に障がいのある方が働く様子を間近で見学するだけでなく、就業希望者を募集する社内チームに同行して福祉機関や支援学校に出向いたり、就業前の実習体験の運営チームに入って「重度知的障がいのある方には、どう説明すれば理解していただけるか」といったノウハウを学びました。また、親御さん向けの説明会で気を配るべき点や言葉遣いなども勉強しました。   

 「障がい者雇用」と一言で言っても、人によって障がいも異なり、障がい特性なのか性格なのかの判断が難しいケースも多く、農園を運営する中では想定外のことが起きることもあります。きれいごとばかりでは済まない仕事ですので、やはりしっかりした知識を持ったうえで臨まないと、働きたい障がいのある方にも、雇用したいと考えている企業にも迷惑をかけてしまいます。そうした点で、研修で多くの知識、気づきを得ることができて、とても恵まれた環境にいることを実感しました。

――改めて、エスプールプラスが展開する障がい者雇用支援の特徴について教えてください。

 先ほど少し触れましたが、企業が「わーくはぴねす農園」の一部を賃借し、企業が雇用した障がいのある方がその農園で働く、というビジネスモデルなので、障がいの度合いが重く一般的な職場や特例子会社ではできる業務がない、就職できない、という方も安心して働けることが特徴だと思います。また、国の補助金などは一切利用しない、サステナブルなビジネスモデルである点も特徴です。多くの民間企業では、身体障がいのある方に雇用が集中しており、知的障がいや精神障がいのある方は、例えばクッキーやお菓子を焼く作業所などで月1~2万円程度の工賃しか得られず、経済的自立が難しいという問題があります 。「わーくはぴねす農園」であれば、「障がいのある方の就業機会や貧困度に差がある」という社会課題の解決だけでなく、企業の直接雇用となるので最低賃金が保証され、社会保険に入ることもできます。また、農作業は比較的障がいの種類や度合いに関係なく従事することができるため、難しい知識を要さず、経験者が見本を示して、それを真似することで仕事をこなすことができます。実は知的障がいのある方には、人の真似をすることがすごく得意な方も多いんです。もちろん農作業の安全を確保するため、施設だけでなく使用する農機具や機械はすべて障がいのある方でも安心して扱える仕様にしています。

 企業は、障がいのある方3名と管理者1名の、計4名を一つの農園チームとして雇用し、毎月農園利用料を支払います。障がいのある方たちも、気心の知れた学校や福祉機関の知り合い同士で働くことができるので居心地が良いようで、12年間の定着率は92%以上となっています 。管理者は農園周辺のシニアの方などで、「社会貢献性の高い仕事をしたい」という方をご紹介しており、地域の雇用創出にも貢献しています。

エスプールプラスでは、「屋外農園」「屋内農園」の2種類を用意している。

   

――企業側にもさまざまなメリットがあると聞きました。

 農園の運営主体はあくまで雇用主である企業ですので、農園をノーマライゼーション()を学ぶための研修施設として使うこともできますし、収穫した野菜を社員食堂で使うケースやイベント等で配布するなど、活かし方は自由です。参画企業の多くは農園を人事部付けにしており、そこで働く方々を自社の福利厚生充実部門と位置付けて採用しています。他にも、健康経営推進やSDGsへの貢献など、様々な視点で活用いただいています。また、農園で働く社員にとっても、野菜をつくり、提供することで本社や各支店の社員と交流が生まれ、モチベーションアップにつながっています。近江商人の「三方よし」ではないですが、お客様企業、障がいのある方、そして当社の三者いずれもがハッピーになれますし、誰も無理をする必要がない持続可能な事業だと思っています。

)ノーマライゼーション:障がい者や高齢者など、社会的弱者とされている人たちを特別視せずに、誰もが同じ社会の一員であると捉えること

――研修後、実際の営業の場面で苦労したことは?

 苦労というわけではないですが、雇用主となる企業の課題を見極め、考え方を理解することが大切だと考えています。企業が法定雇用率の達成だけを目的にしている場合、雇用される障がいのある方も、紹介する私たちもハッピーとは言えません。私たちは農園を通じて障がいがある方の就職支援と、企業が長期的に雇用を継続出来る環境づくりに取り組んでいます。双方にとってより良い雇用環境をつくることは難しくもありますが、大きなやりがいにもつながっています。

 また、プロフェッショナル人材バンクに所属していた時は、社長や新規事業開発を担う役員の方など、決定権を持つ方と直接話すことが多く、比較的短時間でオーダーをいただくこともありましたが、それが障がい者雇用になると、方針を決めるのに複数名の方が関わる内容となり、何度も打ち合わせが必要になります。4名1チームの雇用となるため初期費用も大きく、決裁者に至るまで段階的に繰り返し説明しなければならないこともあり、時間がかかって焦ったりもします。そうした時に、「障がい者雇用」という社会課題への理解と関心を深めながら雇用を促進していくことの難しさを感じます。

障がいのある方が自立して働くことのできる環境を増やし、人々の意識改革を

――企業の障がい者雇用を促進するうえで、重要なことは何でしょうか。

 「雇用率」という数字だけを見るのではではなく、障がい者雇用に対する「正しい関心」を持っていただくことだと思います。農園のお話を持ち掛けると「自分たちはお金を出しさえすれば、手間をかけずに法定雇用率が達成出来る」と解釈される企業も結構いらっしゃいます。当社のビジネスモデルは法定雇用率の達成だけでなく、障がいのある方の就業機会拡大を重視しているため、偏った理解のまま農園事業をスタートさせても、持続可能な雇用にはなかなかつながりません。障がい者雇用の促進には経営者の意識や姿勢が特に重要だと思います。

 ただ、打ち合わせを重ねる過程で企業の障がい者雇用に対する意識が変わっていくケースもあります。社長や役員など経営層の方々の意識がポジティブに変化する様子を見聞きすると、私も大きな充実感を得られますし、その会社の採用担当の方と一緒になって喜びあったりすることもあります。

――今のビジネスを、今後どのように発展させていきたいですか。

 日本でもSDGs達成に貢献しようという風潮が高まっている中で、「わーくはぴねす農園」の運営は「貧困をなくそう」「働きがいも経済成長も」「人や国の不平等をなくそう」といった目標に直結する事業だと考えています。

 障がいのある方が日中働きに出られないことで、見守る親御さんにも働く時間に制限ができてしまう場合もあり、相対的に貧困世帯になってしまうケースもあります。そういう問題はまだまだ残っているので、「わーくはぴねす農園」が障がいのある方の就業の場であると同時に、企業で働く社員とのコミュニケ―ションの場となり、多くの人と障がい者雇用に対する理解を深め合うモデル事業のようにできればいいなと思っています。

――それには、先ほどおっしゃっていた「企業側の意識改革」が重要ですね。

 はい。学校でも障がいのある子どもは特別支援学級に通うと他の子どもたちとの交流機会が少なくなってしまうことがあり、あまりオープンでない印象もありますが、実際は5人に1人は本人もしくは親族に障がい者がいるという統計があります。お客様企業の中にはご家族に障がいのある方がいらっしゃる従業員がいて、今までご家族のことは話さないようにしていたけど、会社が「わーくはぴねす農園」を開園して以降はオープンに話すようになり、「前向きな気持ちになれた」というのをお聞きしました。「自宅から通えるところに農園をつくる時は教えてね」と言われるとやっぱりうれしいですし、たくさんの方からそう言ってもらえるような農園に発展させていきたいと思いました。

――最後に、長澤さんの今後の目標についてお聞かせください。

 自分はもともと「これがやりたい」というのが明確にあるタイプではないのですが、白黒はっきりつけたい人間ではあるので、自分の中で本当に良いと思えるサービスを営業できる今の仕事に出会えてよかったと思っています。

 強いて、今の仕事以外で目標を挙げるなら、人が都市へ集中してしまって、特に地方から若者が流出し続けていることを何とかしたいという想いがあります。逆に、人口流出に悩んでいながら、せっかく都会から人が移住してきても、地方特有の問題で地域の方が快く迎え入れないこともあると聞きますし…。深刻な人材不足によって基本的な生活を支える機能が維持できなくなり、買い物など必要な生活インフラに困っている人も増えていますので、そういう地方が抱える問題を解決するビジネスを創造できるような機会に巡り合えたら、ぜひチャレンジしてみたいですね。

株式会社エスプールプラス

人材ビジネスを広く展開している「エスプールグループ」の中で、特に様々な障がいのある方を対象として農園事業を運営し、障がい者就業支援および企業における障がい者の雇用創出を担う。全国35か所で展開する「わーくはぴねす農園」では、企業が抱える障がい者雇用の様々な課題を解決しながら、障がいのある方が“仕事を通じて働く喜び”を心から体感できる場所を提供している。

https://plus.spool.co.jp/

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