Perspectives

「ビジネスのちから」で環境・社会課題を解決する
“新しい視点”を。

アズビル株式会社 

「RENKEI制御」を通じてASEAN地域の低炭素化に貢献する

キーワード:CO2排出量の削減/省エネ/マレーシア

「人を中心としたオートメーション」をグループ理念に掲げ、計測・制御技術、エネルギーマネジメントに関する高度な技術を基盤にビルや工場、家庭などさまざまな空間に安心・快適、省エネルギーといった価値を提供し続けるazbilグループ。その技術力やノウハウは、急速な経済成長に伴って省エネや温室効果ガス(GHG)削減が急務となっているASEANでも大きな存在感を放っています。また、2020年からは経済産業省が主導する、ASEAN域内の低炭素社会を実現するための官民イニシアティブ(CEFIA:Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)に参画。国内の計測制御ベンダ、現地の政府、金融機関を含む企業、大学などと協働して低炭素技術の普及に努めています。この活動に計測制御ベンダであるazbilグループの代表として参加し、持ち前のチャレンジ精神でさまざまな業務に挑戦し続けているマレーシア出身のLEE PEOY YING(ピヨ)さんにその進捗をお話しいただきました。

Person

アズビル株式会社 アドバンスオートメーションカンパニー エンジニアリング本部
アドバンスト・ソリューション部 最適計画グループ

LEE PEOY YING

マレーシア出身。学生時代からエネルギー問題に関心があり、大学で気候変動問題の重大さを痛感。その解決策の一つである計測・制御技術の可能性に期待を抱き、ASEANで省エネ技術の普及に注力しているアズビル(株)に入社。「とびきり前向きで快活な性格(採用担当者)」を活かして周囲と積極的にコミュニケーションを図りながら、次々と新たな省エネプロジェクトにチャレンジし続けている。母国語であるマレー語と中華系民族としての中国語、英語、大学で学んだ日本語の4か国語が話せる。

未来に貢献できるエネルギー制御技術

――経産省の低炭素化イニシアティブで活躍されているとお聞きしました。環境問題に対して、いつ頃から、どのような関心を抱いていたのでしょうか。

 私は学生時代からエネルギー問題に関心がありました。地球温暖化が進む一方で、再生可能エネルギーの普及もまだまだ十分とは言えず、このままでは私たちが大人になるにつれ、生活や社会の豊かさが次第に失われていくのではないかと危機感を抱いていました。そんな気持ちから、何かしらエネルギー問題の解決に資する仕事に携わりたいと考え、マレーシア工科大学に入学し、化学工学を専攻しました。建物やプラントで消費するエネルギー効率の向上を実現するエンジニアになりたいと考えたのです。

――アズビルを選んだのはどのような理由ですか。

 大学では、「地域冷暖房システムの最適化」という研究テーマで地冷プラントのシミュレーションを学びました。指導を受けた日本人の教授から国際社会における「サステイナビリティ」という考え方やSDGsに貢献することの重要性を聞き、以前から抱いていた「エネルギー問題を何とかしたい」という想いが重なりました。そうした中で、高度な計測・制御技術を駆使した連携制御技術をASEAN各国の商業ビルやオフィスビル、工場などに展開してSDGsに貢献しているアズビルに興味をもちました。

 アズビルの面接では、冷暖房システム、動力プラントなどに計測・最適化制御技術を用いてエネルギー効率を飛躍的に高めるソリューションビジネスを展開していることを教えてもらいました。「アズビルで最適化制御技術を学び、いろいろなプロジェクトを実施してみたい」「こうした技術が世界中のビル、プラントに実装されることで、間違いなく気候変動問題やエネルギー問題に貢献できる」と確信し、入社を希望しました。

――故郷を離れ、日本企業で働くということに不安はありませんでしたか。

 故郷を離れるのは大きなチャレンジでしたが、日本企業で3カ月インターンシップを経験し、日本企業の技術と文化をもっと味わいたいと思うようになりました。また、日本での生活を通じて、長期にわたっても滞在してみたいと思い、大きな不安はありませんでした。          

 加えてもう一つ、アズビルに飛び込んでみようと思ったのは、技術レベルの高さと、開発エンジニアが緊密にコミュニケーションをとりながらチーム一丸となって課題を克服していくプロジェクトベースの仕事スタイルであると聞き、常に新しいことに挑戦し学び続けたいと思っている私にとって、大変魅力的な社風と感じました。

ASEANを舞台にした国際プロジェクトに参加

――入社はどんな業務を経験しましたか。

 2019年の入社後は、製造業のお客様にファクトリーオートメーションやプロセスオートメーションを提供するアドバンスオートメーションカンパニーに所属し、技術研究・商品開発の中核拠点である藤沢テクノセンターで働いています。

 職種は希望通り、お客様の課題解決を担うプロジェクト・エンジニアで、インドネシアなどASEAN各国のお客様の動力プラントの最適化シミュレーションなどを経験しました。新型コロナのため、現地訪問は出来ませんでしたが、現地法人の仲間と協働しながら、いくつかの省エネ制御プロジェクトに携わりました。

――そのなかでCEFIAというイニシアティブに参加することになったのですね。

 はい、ある日上司に呼ばれ、「ASEANで低炭素社会実現に向けたプロジェクトが始動する。ピヨさんの故郷でもあるし、挑戦しがいのある仕事になる」と誘われ、飛び込んでみることにしました。入社間もない私にとっては大役ですが、自分の意思で歩き始めないと前に進むことはできませんので、挑戦することにしました。

――改めて、CEFIAとはどのような活動なのでしょうか。構想の全体像を教えてください。

 はい。「CEFIA(Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)」は、ASEAN地域で、ビジネス主導によるエネルギートランジションと脱炭素技術の普及をめざす官民連携イニシアティブで、私が入社した2019年に始まりました。

 その起点になっているのが、日本政府の長期戦略()に基づいて経済産業省が打ち出した日本の高度な環境技術、知見やノウハウを民間主導でASEAN域内に普及していこうという提案です。ASEAN各国は日本経済と密接に関わっているうえ、経済成長とともに年々エネルギー消費量やGHG排出量が増えていますので、積極的に低炭素技術や制度の横展開を図り、世界と協調して気候変動対策やエネルギー政策を進めていくことが重要になっています。

2019年6月に国連気候変動枠組条約事務局に提出した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」において、日本は「環境と成長の好循環」というコンセプトの下、脱炭素技術の導入と合わせて、制度整備・構築等を進めることで相手国の温室効果ガス排出を大幅に削減する技術普及をもたらし、さらに他国への横展開を促進することで、ビジネス主導の国際展開と同時に、世界全体の温室効果ガス削減を進めていくことを明記している。
参照 https://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191108001/20191108001.html

コロナ禍もあり、現場とのコミュニケーションはオンラインで

得意技術を活かして国際社会の要請に応える

――具体的にどんな取り組みをしているのでしょうか。

 CEFIAASEAN+3(中国・韓国・日本)のエネルギー大臣会合で採択された低炭素社会の実現に向けた官民協働イニシアティブですので、非常に幅広いテーマがあります。

 CEFIAには、日本の最先端技術をASEANに普及させていく「フラッグシップ・プロジェクト」があり、最初に選ばれた技術は「ゼロエナジー・ビルティング」「マイクロ・グリッド」と「連携制御」の3つで、アズビルは日本の計測制御ベンダと協働して「RENKEIフラッグシップ・プロジェクト」に参画しています。

――「RENKEI」は低炭素社会に不可欠な国際語になっているのですね。

 はい。その背景となっているのが、RENKEIフラッグシップ・プロジェクトで協働している企業が会員となっている業界団体、(一社)電子情報技術産業協会、JEITAの取り組みです。10年以上も前から会員各社が協働してビルや工場設備を連携最適運用することで省エネやエネルギー効率向上を実現する“RENKEI Control技術”の普及活動を続けてきたそうです。そのなかでアズビルは、得意とする計測・制御技術を活かして、電気、蒸気、冷水などを供給する設備とそれらを利用する製造設備側までをセンサーと計測機器などでIoT化し、さらに最適化技術、AI技術などを活用して連携制御することで無駄なエネルギーをつくらず、使わず、最適な運用を実現する技術開発に挑戦し続けてきました。

 こうした取り組みの結果、高性能機器へのリプレースに比べて、連携制御システムの導入は、工期が短く投資も抑制でき、温暖化ガスを削減するための費用対効果が高い技術であるという認識が高まってきています。もちろん、高性能機器を導入した上でシステム化すれば、さらに削減効果が得られますが、どのプロジェクトにも予算には限りがありますので、RENKEIフラッグシップ・プロジェクトではこの即効性の高い連携制御技術の普及をゴールとしています。

――ピヨさんは具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか。

 いろいろなこと――フラッグシップ・プロジェクトに設けられた5つのテーマのすべてに挑戦する機会をいただいています。

 最初に注力したのは、ASEAN各国の大学と連携した「人材育成」です。そして、連携制御システムを導入することでどのぐらいのCO2がASEAN各国で削減できるかを想定する「ポテンシャル調査」や、日本で言うトップランナー制度や省エネ補助金など、連携制御の導入を促す「政策調査提言」も行っています。それから実際のビルやプラントへの導入を想定した「フィージビリティ・スタディ(事業化調査)」、さらに本格的な実装の前段階として「パイロットプロジェクト」へと展開していく計画です。

――まさに日本の技術と知見・ノウハウを結集したプロジェクトですね。

 はい。私はこれらのなかでも「人材育成」がとても重要だと思っています。連携制御システムの普及を自律して持続させていくためには、現場を重視して最適化を追求し続けるその国の人材が必要だからです。

 また、日本の経験を活かして人材育成を含めた「低炭素技術」「ファイナンス」「政策づくり」を三位一体として提供し、関係者が皆、Win-Winになるプロジェクトに携わっていることは、日々のチャレンジや学びの面白さだけでない、大きな誇りがもてる仕事だと感じています。

低炭素社会づくりを「人づくり」から始める喜びと誇り

――人材育成については具体的にどのように進めているのですか。

 まず基本的な考え方として、私自身、気候変動問題や制御技術のことなど、これまでのさまざまな学びがあったことで、新しいことに挑戦しようという気力が湧きました。知ることが、未来につながる。そのことを実感してもらうことを念頭に置いて人材育成を実施しました。

 具体的には、ベトナム/ハノイ工科大学、インドネシア/バンドン工科大学、タイ/チュラロンコン大学の学生向けに連携制御の講義を実施しました。コロナ下でもあることから、各大学の教授と調整し、授業時間を使ってウェビナーを開催させてもらいました。講義用の教材を用意したり、理解を高めるためにハンズオン・トレーニングも取り入れるなど、学生にできるだけ連携制御の効果を実感してもらうようにしました。

授業の様子

――入社して数年で教材をつくって人に教えるということは、ピヨさんは相当優秀な方なんですね。

 とんでもないです(笑)。もちろんベースになるのは私自身のこれまで得てきた知識や経験ですが、それだけでは到底足りません。ですから、ウェビナーのテーマを決めたら、まずは自分がつくった資料を計測と制御の専門家である社内の先輩やJEITAのメンバーに見てもらい、アドバイスを活かしています。そのなかで強く思ったことは、人に教えようとすると、自分自身も成長していくということです。ウェビナーのたびに知識が増え、学生との質疑応答のたびに考えが深まっていくことを実感しました。

――ウェビナーで大変だったことはありますか。

 わからないことをどんどん人に聞いていくのは学生時代からそういうスタイルだったので苦になりませんでした(笑)。それよりも、自分が出した課題に多くの学生が意欲的に取り組んでくれて、とても勇気づけられたというか、ASEANの未来につながる仕事をさせてもらっているという感謝の方が大きいですね。

――課題も出すんですね。

 はい。フラッグシップ・プロジェクトの人材育成は単に知識を伝授するだけでなく、実践力を養うものという位置づけですので、私が担当するフィージビリティ・スタディの業務と結びつけた課題を出しました。簡略化したコジェネレーション・プラントの運転データを使って、どの設備をどう動かせばエネルギー効率が高まり、CO2排出量が削減できるか、そのための最適な連携制御のかたちはどんなものか、という課題です。

――活動の成果COP26で発表したと聞いています。

 はい。2021年に英国グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回会議)のJAPAN PAVILLIONで、実施してきた「人材育成」「ポテンシャル調査」「政策調査提言」「フィージビリティ・スタディ」に関する報告を JEITAの代表としてプレゼンテーションさせていただきました。世界的な注目を集める国際イベントですので、かなり緊張しましたが、事前に何度も練習しました。当日はチュラロンコン大学のプロフェッサーに助けてもらったこともありとても好評で、パイロットプロジェクト実施後にぜひ、改めて成果発表できればと思います。

COP26ジャパンパビリオンでのプレゼンテーション

エネルギー問題のプロとして成長し続けたい

――ピヨさんのチャレンジ精神や知的好奇心の強さ、積極性が伺えるお話でした。最後になりますが、これからどんなエンジニアになりたいか、どんな社会をつくっていきたいかを教えてください。

 再生可能エネルギー、水素エネルギーなど、エネルギーに関する知識をどんどん学びながらプロジェクトを通じて制御システムから最適化システムまでの総合制御システムを提案、設計、構築、評価ができるようなプロフェッショナルになりたいと思います。

 幸い、私のいる藤沢テクノセンターはそうしたプロの先輩がたくさんおり、皆さん何でも教えてくれるいい雰囲気があります。また、この夏には新棟が増設され、開発環境もさらに進化していくのでとても楽しみです。

 さらに、私のような外国人が現地法人ではなく本社で活躍できる環境づくりも進んでおり、ASEAN各国の後輩たちもこれから入社してくることを期待しています。

 こうした恵まれた環境を活かして私らしいチャレンジを続けていけたらいいなと思っています。

編集後記

アズビル株式会社

1906年、「人間を苦役から解放したい」という創業者の志をもとに発足した工作機械の輸入商社「山武商会」が原点。1950年代以降は開発・製造・エンジニアリング機能を有する総合オートメーションメーカーとして日本の高度経済成長を支える。創業100年を迎えた2006年に創業の精神を受け継ぎ、次の100年を見据えた理念「人を中心としたオートメーション」とその象徴であるブランド名「azbil」を定め、2012年には現社名の「アズビル」に変更した。ビルディングオートメーション(オフィスビル、商業ビル)、アドバンストオートメーション(プラント・工場)、ライフオートメーション(一般住宅、製薬・医療設備)までの幅広いフィールドで高度な計測・制御技術に基づく多彩な製品・サービスをグローバルに提供しており、近年は、次世代センサーやAI、IoTを活用した気候変動問題の解決に貢献するソリューション開発に注力している。

https://www.azbil.com/jp/

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