適正飲酒

キリンビール

「お酒の代わり」だけではない、 ノンアルコールビール“3つの価値”で、多くの人々にWell-beingを届けたい

アルコール飲料は私たちに楽しさや爽快感、報酬感を与えてくれる一方で、過剰摂取による健康への影響も懸念されています。WHO(世界保健機関)では、有害な飲酒を少なくとも10%削減する目標を設定しており、SDGs(持続可能な開発目標)においてもアルコールの有害な摂取をなくし、健康と福祉を増進することがターゲットの一つとして掲げられています。キリングループも同様の趣旨から、以前から適正飲酒の啓発活動に力を入れており、仲間との食事や会話とともにほどよくお酒を楽しむ「スロードリンク」を積極的に提案しています。 またキリンビールは、健康的にビールの風味を楽しめる新たなカテゴリーとしてノンアルコールビールを業界に先駆けて開発。普及活動を通じてその市場は着実に拡大しています。パイオニアである同社は今、その役割や市場をどう捉え、どのような展望を描いているのか。マーケティング担当である小原さんにお話を伺いました。

Business Person

麒麟麦酒株式会社(キリンビール株式会社)
マーケティング本部 マーケティング部 ビール類カテゴリー戦略担当 ノンアルチーム

小原 理美

大学時代は農学部で食品栄養学を専攻。食と健康を通じて社会へ貢献する企業姿勢に共感したことや、初めて飲んだお酒が「氷結®」だったことから、2006年にキリンビール株式会社に入社。調達部門や営業部門を経て、2015年にマーケティング部へ。「一番搾り」「淡麗グリーンラベル」などのブランド戦略の立案を担当。2019年に一旦、戦略の策定業務から離れ、営業現場を支援するチームへ。その後、営業支援の経験を活かして改めて戦略策定に携わりたいとの想いから異動を希望し、2021年4月からノンアルコールビールのマーケティングを担う。

 

Contents

 

“ノンアルコール”ビールの担当になって

――小原さんは昨年の4月にノンアルコールビールのマーケティング担当になられました。当初の思いをお聞かせください。

 過去に「淡麗グリーンラベル」など機能系ビールのマーケティングを担当するなかでお客様の健康志向の高まりを感じていたので、経験のないカテゴリーではありましたが、改めてやりがいのある仕事だと感じていました。また、キリングループは従来からCSV経営を推進しており、CSVコミットメントで「適正飲酒啓発と次世代へのお酒の文化継承」や「健康・未病領域における新価値創造」を掲げています。そのなかで、ノンアルコールビールは当社のめざす方向性とも合致しており、その意味でもこのカテゴリーを担当できることに大きな意義を感じていました。

 ちなみに、私は学生時代に農学部で食品栄養学を専攻しており、「おいしい食べ物やお酒を通して世の中を良くしたい」という思いでキリンビールに入社しました。ノンアルコールビールを開発・プロモーションしていくことは、私自身の入社時からもち続けている志にも通じています。

社会課題解決を担う商品から、ライフスタイルに寄りそう存在へ

――御社はノンアルコールビールを世界で初めて発売した会社と聞きました。開発の経緯を教えていただけますか。

 当社が初のノンアルコールビールの開発に着手したのは、2007年です。当時は飲酒したドライバーによる事故が相次ぎ、飲酒運転が大きな社会課題となっていました。その結果、飲酒運転を容認した周辺者にも直接的な処罰が設けられるなど、罰則が大幅に強化されました。こうしたなか、私たちは酒類メーカーとしての社会的責任を果たすために、有効な選択肢の一つとしてノンアルコールビールの開発を開始し、2009年にアルコール0.00%のビールテイスト飲料「キリンフリー」を発売しました。ノンアルコールを謳ったビールテイスト飲料はそれ以前にも存在していましたが、アルコールが完全にゼロの商品は世界でもこれが初めてでした。

――どのように商品を展開していったのでしょうか。

 ハンドルキーパーの方を対象にしたポスターなどでの啓発活動と並行して、サービスエリアや道の駅などを含む飲食店に積極的にノンアルコールビールを提案していきました。アルコール飲料を飲んではいけないシーンにノンアルコールビールを提供できたことはドライバーの意識の変化につながり、非常に意義があったと考えています。現在では、当社のノンアルコールビールの出荷点数はおよそ349万箱(大びん633ml×20本換算)に達しています。

――ノンアルコールビールを普及させることが、社会課題解決にもつながっていったのですね。加えて最近は、ドライブ前だけでなく、いろいろなシーンでノンアルコールビールを選択する方が多い印象です。

 そうですね。競合商品も発売され市場が拡大し、広く手に取ってもらえるようになるにつれて、休肝日に飲むといった健康面でのニーズもあることがわかってきました。

 そこにフィットする商品として、当社は2015年、脂肪の吸収を抑え、糖の吸収をおだやかにする難消化性デキストリンを使用した「パーフェクトフリー」を発売。さらに2019年には、「カラダFREE」を発売しました。これは、キリングループが10年以上かけて開発した独自素材である熟成ホップエキスを使用し、「お腹まわりの脂肪を減らす」という機能を実現した商品です。大きなヒットとなり、現在も出荷数が増え続け ています。

――お客様のニーズに応えるなかで、健康面の機能を進化させていったのですね。

 はい。それだけではなく、おいしさも進化させています。味は、ノンアルコールビールのユーザーを増やしていくにあたって長年の課題の一つでした。そこで私たちは2017年、「一番搾り」と同じ“一番搾り製法”で麦のうまみを引き出した「零ICHI」を発売しました。ビールに近い味わいを、徹底的に追求した商品です。

 そして、その後の2020年に発売したのが「グリーンズフリー」です。麦とホップの良さを引き出し、さわやかですっきりとした味わいを突き詰めています。マーケティング調査でお客様の声を聞く中で、ノンアルコールビールに対して酔わずにビールのおいしさを楽しめるという前向きな価値を感じる方が増えていることがわかりました。そういったお客様は、ドライブ前や休肝日などの「事情でビールが飲めないシーン」に加え、昼食時やジムの後、趣味のお供など様々な「リフレッシュしたいシーン」でノンアルコールビールを楽しんでいらっしゃいます。そこで、時と場所を問わずに多くのお客様にリフレッシュ感を提供していく商品として開発しました。

――お客様の声に応え続けることで、御社のノンアルコールビールは多様な軸で発展しているのですね。

 はい。現在、当社のノンアルコールビールは3つの商品が柱です。「零ICHI」は、運転などの理由でやむを得ずノンアルコールにしなければならない時、本格的なビールらしさを求める方に向けた商品。「カラダFREE」は、健康維持や体型改善に関心をもつ方に。そして「グリーンズフリー」は、ビールのおいしさや爽快感を幅広いシーンで楽しめる商品です。このなかでもノンアルコールビールの新しい楽しみ方を提唱するグリーンズフリーは、お客様をより幅広い層へと拡大していくうえでカギになる商品だと考えています。

キリンビールのノンアルコールビールの主力商品たち。左から零ICHI、グリーンズフリー、カラダFREE

コロナ禍で再確認したノンアルコールビールの価値

――昨今のコロナ禍において、ノンアルコールビールに影響はありますか。

 身体を大切にしながらちょっと良い気分になりたいというニーズは着実に増加しており、ノンアルコールビールの売上げは非常に伸びています。ビール類の市場が少しずつ縮小しているなか、ノンアルコールビール商品全体(20211~10月の売上は前年比109%となっています。コロナ禍においては、お客様の健康への意識がさらに高まってきており、「コロナをきっかけに飲酒量や食生活を見直すことにした」「これからのことを考えるとコロナ後も健康に配慮したい」というアンケート回答に見られるように、普及が進んでいる印象をもっています。

他社含むアルコール0.00%のノンアルコールビール市場全体

――仲間と集まってお酒を飲む機会も減ってしまいました。

 そうですね。私自身、飲み会がなくなってみて実感したのは、ビールを飲む喜びは「酔っていい気分になる」ことだけではなかったということです。ビールがおいしいと明るく生き生きした気持ちになれる。そのような嬉しい瞬間を、例えば一緒に食卓を囲んでいる家族や、飲み会に参加した親しい友人たちと共有することで、より会話がはずんだり、つながりを実感したりできる。こうした喜びは、ノンアルコールビールでも全く同じように提供できるのではないか、ノンアルコールビールを通して多くのお客様においしさと会話を楽しむ喜びをもっとお届けしたいな、と改めて思っているところです。

キリングループでは以前から、飲む“量”ではなくお酒の場に流れる“時間”を楽しむ「スロードリンク」を推奨。この楽しみをノンアルコールビールでも届けていく

まだビールしか飲んだことのない方を振り向かせたい

――今後の展望を教えてください。

 0.00%のノンアルコールビールを初めて発売してから12年、市場は右肩上がりに成長してきました。それでもお客様の数はまだビール類の3分の1ほどにとどまっています。ですから、まだノンアルコールビールを飲んだことがない方たちに、その魅力をもっと知っていただくことに取り組んでいきます。

      

 
 ビールは好きだけれどノンアルコールビールは飲まないという方は、ノンアルコールビールにビールが飲めないから仕方なく選ぶ妥協の飲みものという発売当時のイメージをおもちなのではないかと考えています。ところが現在は、「自宅で映画を観る時に、より集中して楽しむためにあえて酔わないノンアルコールビールを選ぶ」というように、前向きな理由で飲んでいる方がたくさんいらっしゃいます。ノンアルコールビールは丁寧に美味しくつくられていて、酔いたくないシーンでもビールの爽快感を楽しめる飲み物だと知っていただき、「これを飲みたい!」という思いで選んでいただけるよう、マーケティングや販促に取り組んでいきたいですね。

――魅力に気づいてもらうための具体的な戦略とは?

 非ユーザーにはそもそもノンアルコールビールの売り場に足を運んでいただけないので、サンプリングを実施して、まずは一度飲んでみていただきたいと強く思っています。従来のビール代替シーンではなく、「こういう場面でノンアルコールビールを飲んだら気持ち良いんだな」と実感していただけるようなタイミングでサンプルをお配りする取り組みを、今年から始めていく予定です。

 また、広告でも、非ユーザーの方の興味を喚起する伝え方が重要です。ストレートに「ノンアルコールビールがこんなに美味しくなりました!」と言っても、ノンアルコールビールに興味がない方にはシャットアウトされてしまうでしょう。お客様にとって「いろいろなシーンで気持ちよく飲める飲料があり、それがノンアルコールビールなのだ」という発見につながるような伝え方をしていきたいと考えています。

今後の展望を語る小原さん。新たな展開に向け、すでに着々と準備を進めている

未開拓の領域を切り開くやりがい

――ノンアルコールビールにはまだまだ伸びしろがあり、やりがいもありますね。

 お客様の健康に貢献する、家族や仲間と集いつながる商品を担当できるのは、本当に幸せなことです。

 今キリングループでは、35年の免疫研究から生まれた「プラズマ乳酸菌」を使用した商品をキリンビバレッジ、小岩井乳業、協和発酵バイオのグループ横断で展開している他、ファンケルとキリンビール・キリンビバレッジの共同開発で生まれたヘルスサイエンス領域の新商品を発売するなど、いろいろな事業会社でwell-being領域のチャレンジを始めています。私たちが今手探りで行っている非ユーザーを振り向かせるためのマーケティングは、今後キリングループがこういった新しいことにチャレンジするうえで非常に役に立つのではないかと思っています。私個人としても、お客様への理解を深め、振り向いていただけるマーケティングのスキルをしっかり身につけて、ビールに限らずどの領域でも新市場の開拓ができるマーケターになりたいですね。

 

麒麟麦酒株式会社(キリンビール株式会社)

1885年設立のジャパン・ブルワリーの流れを汲み、1907年に創立。日本のビール事業の草分け的存在。キリングループ全体で積極的にCSVを推進していることでも知られ、「酒類メーカーとしての責任」を踏まえアルコール関連問題に取り組み、そのうえで「健康」「地域社会・コミュニティ」「環境」の社会課題解決に事業を通して取り組むことを掲げている。

CSV経営については、キリンホールディングス株式会社のサイトに掲載。

https://www.kirinholdings.com/jp/

 

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