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住友化学株式会社 

炭素を資源へ―― 住友化学が描く“炭素資源循環型化学品事業”の可能性

キーワード:サーキュラーエコノミー/プラスチック循環/ケミカルリサイクル

脱炭素の流れが加速し、化学業界においても石化依存からの脱却が求められるなか、住友化学は「炭素を循環させることで持続可能な社会に不可欠な資源へと転換する」という明確なビジョンを掲げています。また、その具現化に向けて「炭素循環技術」を柱の一つとする「GXソリューション事業」に注力。2030年代の成長ドライバーとすべく取り組みを加速しています。高収率での廃プラスチックのモノマー化をはじめ、バイオ原料への転換、CCU技術の開発など、住友化学グループの最前線でこれら技術の事業化に取り組む「炭素資源循環事業化推進室」の野末佳伸氏に活動の状況とその視線の先にある成長戦略を伺いました。

Person

住友化学 炭素資源循環事業化推進室 部長

野末 佳伸

2002年入社。研究所で分析技術を活用した材料設計やプラスチックの構造設計に従事。東日本大震災以降、エネルギー問題への関心を深め、「化学の力でできることがあるはず」と、住宅の省エネ化に貢献する新規プラスチック「温調樹脂」の開発とマーケティングを担当。顧客であるハウスメーカーの省エネ大賞受賞に貢献した。2021年、研究所に戻りプラスチックのリサイクルに関する研究に携わった後、2023年にプラスチック循環事業化推進室(当時。2025年に炭素資源循環事業化推進室に名称変更)に異動、部長として活動を統括している。

炭素を「循環させ、価値を再生する資源」として位置づけ、長期成長戦略に組み込む

――最初に、「炭素資源循環事業化推進室」のミッションと、室を開設された背景について教えてください。

 我々のミッションは部署名が示す通り明確です。「炭素は循環させることで未来社会に不可欠な貴重な資源になる」という新たな価値観を社会に浸透させ、炭素資源循環のバリューチェーンを経済・社会システムに確実に組み込んでいくことです。そのため我々推進室は、炭素資源循環技術の「研究・技術開発」だけでなく、「企画」「マーケティング」「規格化・政策連携」など、社会実装までを一貫して推進する実行組織として活動しています。

 こうした取り組みの背景には、世界的な脱炭素化の潮流が加速する一方で、炭素を単なる「排除すべき存在」としてではなく、「循環させ、価値を再生する資源」として捉え直す新たな視点があります。化石資源は有限であることから、それらへの依存を減らしながら、化学品や燃料、素材などのエッセンシャルな産業基盤を維持・発展させるためには、炭素を循環的に利用する新たな経済モデルであるサーキュラーエコノミーへの転換が不可欠になっているのです。

 例えば、日本では今、毎年約900万トンの廃プラスチックが発生しています。一般的には「ゴミ」とみなされますが、実際には炭素資源の集積体です。従来、これら廃プラスチックの多くは安価なプラスチック原料を求める中国や東南アジアに輸出されていました。しかし近年は海洋汚染といった環境問題などを背景に廃棄物の輸出規制が強化されています。そこで国内ではこれら廃プラスチックをペレットとして再生活用する動きが始まっています。2022年に施行された「プラスチック資源循環促進法」はサーキュラーエコノミーの実現に向けた象徴的な法規であり、以降、化学産業においては、化石資源依存やGHG排出量の双方を低減する取り組みが本格化しています。

 ただ、国内で回収、再生されたプラスチックは、国内製造業が求める品質に届かないものも多く、活用先が広らず、未だ約6~7割ほどの再生プラスチックが輸出されているのが現状です。このままでは貴重な資源が海外にどんどん流出してしまうことから、日本国内での廃プラスチックの資源循環、サーキュラーエコノミーの実現が非常に重要であると認識されつつあります。

――そうした社会の要請に応えると同時に、住友化学の長期成長戦略の一翼を担うコーポレート組織でもあると伺いました。

 はい、これまでの経緯を踏まえてお話ししますと、私がこの仕事に就いた2023年は、「プラスチック資源循環事業化推進室」という名称で、活動自体は2021年から始まっていました。その契機となったのが、当時の経営陣が掲げたマテリアリティ(重要課題)の一つ、「プラスチック資源循環への貢献」で、当社は「2030年度までに製造プロセスに使用するプラスチック再生資源を年間20万トンに拡大する」という目標を掲げました。

 また、2021年に当社は「2050年カーボンニュートラル実現に向けたグランドデザイン」を策定し、自社のGHG排出量をゼロに近づける「責務」と、当社の製品・技術を通じて世界のGHGを削減する「貢献」を果たしていくことを表明しました。同年、活動を開始した当室の取り組みは、まさにこの「貢献」の中核を担うものです。

 さらに、2025年度から2027年度までの中期経営計画のなかで示された長期的に目指す姿、「Innovative Solution Provider/イノベーティブな技術で社会課題を解決する企業へ」では、石化依存からの脱却後の成長を担う戦略的組織として炭素資源循環事業化推進室が位置づけられ、2030年以降、当社グループの飛躍を支える新たな成長ドライバーとなる目標が明確に示されています。

――途中、「プラスチック資源循環」から「炭素資源循環」へと名称が変わったということですが、その理由は何だったのでしょうか。

 活動を始めた頃に取り組んでいたテーマのつは、積水化学工業様が開発した、プラスチック成分を含む未分別の混合ごみをエタノールに変換する技術を土台としたケミカルリサイクルでした。廃棄物由来のエタノールをもとに、エチレン、そしてポリオレフィンにリサイクルしていく取り組みで、当時の中心テーマは、化学品の製造プロセスにいかにしてプラスチック再生資源を採り入れていくか、というものでした。

 ただ、廃プラスチックのケミカルリサイクルのみでは、世の中で必要とされるだけの炭素を循環させるには不十分で、バイオマスや、CCU(CO₂回収・利用技術)など様々なアプローチで多様な炭素資源を上手に使っていくことも必要になります。そこで、活動の幅をより広げていくことを志向して名称を変更することにしたのです。

 現在は、エタノールからオレフィンを高効率で得る技術の開発においても、バイオマス由来のエタノールを原料として用いる検討も積極的に推進したり、CO₂を回収して化学品に直接変換するCCU――たとえばCO₂と水素を原料としてメタノールに転換する技術の社会実装に向けて取り組むなど、炭素資源循環の選択肢を広げながらGHG削減への「貢献」をめざしています。

――定量的な達成目標について教えてください。

 中期経営計画では、「GXソリューション事業」によって2035年のコア営業利益約400億円、CO₂削減貢献約250万トン/年相当という数字を公表しています。

長期的な成長シナリオ

(出典)住友化学株式会社「2025-2027年度中期経営計画説明会」資料

 
 ちなみに、GXソリューション事業として最も関わりが高いセグメントは、エッセンシャル&グリーンマテリアルズ部門です。ここには既存の石化・樹脂・工業薬品が含まれますが、社会に不可欠なエッセンシャルな製品群でありつつ、環境負荷が高い事業でもあることから、いかに持続可能な形で世の中に広く提供していくかが厳しく問われています。そうした難題に対し、従来のリニアエコノミー型ではなく、5年10年をかけてでも資源循環を通じたサーキュラー型の新たな価値創造モデルの実現にコミットすること――それが我々の仕事だと思っています。

――一部の国や地域でESGへの取り組みが退潮傾向にありますが、目標設定に変化はありますか。

 確かに現状、米国では連邦レベルでESG関連規制の撤廃が進み、EUでもESG報告義務が大幅に縮小されるなど、サーキュラーエコノミーという志の高さとは裏腹に、残念ながら世界的にESGの取り組みは後退傾向にあるように見えます。また、現在は化石資源を使ってモノをつくるリニアエコノミーが最も経済的に合理性が高いことも事実です。ただ、未来に豊かさをつなぐためには新しい価値観を導入しないといけない。そのせめぎ合いのなか、我々は長期的な観点に立つコーポレート組織として、技術開発とバリューチェーンの構築を両輪とした準備をスローダウンさせる必要はないと考えています。いずれ追い風が吹き、当社の成長をけん引する事業が生まれてくると確信しているからです。

 一時的な後退傾向は、逆に、国際社会が時間をくれたという見方もでき、ある意味チャンスだとも思っています。一方で、昨今の中東情勢も踏まえ資源経済安保の観点からサーキュラーエコノミーの重要性が再認識されると考えており、開発を早く完遂しなくては、という思いも強く持ってます。外部の知見も活かしながら“すぐに使える本命技術”を早く準備して、いつでも答えを出せるような状況を整えていきたい。また、数字に関してもその時々で最速の達成値を発信し続けていくつもりです。

――御社には「SSS (Sumika Sustainable Solutions)認定製品」と呼ぶ環境貢献型製品や、リサイクル技術を活用したプラスチック製品の統合ブランド「Meguri®」があります。これら製品との関係を教えてください。

 
 SSS製品は、気候変動対応、環境負荷低減、資源有効利用の分野で貢献するグループの製品・技術を自社で認定したものです。また、2020年にスタートしたMeguri®ブランドは、リサイクルを前提とし、「プラスチック廃棄物の削減」と「CO₂排出量の削減」の観点で資源循環に貢献する価値軸で評価・認定された製品群です。

 ちなみに、自動車のマテリアルリサイクルやPMMAのケミカルリサイクルなどはMeguri®認定製品で、“現在の住友化学の競争力”を支える取り組みとして、各事業部門単位で販売を進めています。これは、「資源循環」が競争軸となる中、最前線の事業部門の判断製品・市場の状況を早期に見極め、リソースを集中してスピード感をもって市場に打って出ることで成果につなげることを狙った戦略です。

 我々の開発は、もう少し時間がかかる取り組みになりますが、もちろん原料調達などリサイクルの世界で起こっている動向や、お互いに参考になる知見などは日頃から事業部―炭素資源循環事業化推進室の間で積極的に情報交換しています。幸い、当事業化推進室にはオープンマインドをもち、社内外に豊富な人脈をもつメンバーが多く在籍していますので、その辺りはかなりスムーズに進められていると思ってます。我々の取り扱う技術に基づく製品も、早くMeguri®認定商品として販売されることを目標に日々活動に励んでいます。

分子レベルで“新品同等品質”の樹脂へと水平リサイクルできる「ケミカルリサイクル技術」に注力

――GXソリューション事業の目標を達成するための鍵になる技術の進捗について教えてください。

 技術開発については、先ほどお話ししたように「資源循環」を幅広に捉え、廃プラスチックのケミカルリサイクル技術の確立に加えて、バイオマス活用やCCUなど、石油由来ではない原料転換に取り組んでいます。

 そのなかでも、ケミカルリサイクル技術は、品質のダウンサイクルに陥りがちで量も用途も限られるマテリアルリサイクルの弱点を補い、分子レベルに一回分解して原料に再生してから“新品同等品質”の樹脂へと水平リサイクルできることから、今後最も注力していきたい分野です。

 現状、廃プラスチックを原料に熱分解処理をして油を取得した後、既存のリファイナリーやクラッカーに投入するルートでは、化学品の原料になり得るのは実質的に2割から3割程度で、残り7割は、燃料として使わざるを得ない状況と認識しています。これだと固形燃料を液体燃料に変えている部分が多くを占めてしまいます。やはりケミカルリサイクルという以上は化学品をより多くつくっていくべきです。そこで当社は現在、廃プラスチックの6、7割という高収率で化学品に変換していく技術の確立に挑戦しています。

 例えば今、我々が進めているプロジェクトでは、リサイクル性と経済性を両立させるために、マテリアルリサイクルに用いられるような有償の廃プラスチックではなく、「誰か引き取ってください」と言われるような低品質の廃プラスチックまでスコープを広げた再生プラスチックの原料をつくる実証実験を進めています。

――どんな技術なのでしょうか。

 従来、廃プラスチックをケミカルリサイクルするためには、熱分解して油にして、クラッカーとよぶ設備で900℃程度の高温で炭化水素を分子レベルまで分解し、その後、プラスチックに重合する必要がありました。一方、当社が開発した技術は、クラッカーを使わず、独自開発した触媒を用いることで、600℃程度という低温で直接プラスチックの原料分子であるモノマーに高い選択率で戻すことができ、必要なエネルギーを大幅に削減しながら、化学品原料を多く回収することができます。また、従来のプロセスでは扱いづらかった、多少不純物が入った油でも受容できるプロセスを開発しており、開発が成功すれば受け入れられる廃プラスチック原料の幅が従来比で3倍強まで広がる見込みです。

 この技術は現在、ラボスケールを経てベンチスケールの実証でもメドがついてきており、これから次のパイロットプラントに進んでいくために幅広い由来の廃プラスチックを熱分解油に変換し、その評価を進めているところです。当初は2030年代中頃ぐらいの実装をめざしていましたが、2、3年前倒しする目標を持って鋭意開発を進めています。なお、この取り組みは、GI基金()の支援を受けた原料転換技術の一つになります。

グリーンイノベーション基金(GI基金)は、日本が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、国立研究開発法人NEDOに創設された大型支援基金で、脱炭素化に向けた挑戦的な技術開発から実証、そして社会実装までを最長10年間にわたり一体的に支援する。

ケミカルリサイクル技術による炭素循環の実現

(出典)住友化学株式会社「ケミカルリサイクル技術に関する4テーマがグリーンイノベーション基金事業に採択」(2022年2月)

 
 GI基金の支援を受けた原料転換技術の関係では、エタノールからオレフィンを製造する技術の開発も、実用化に向けた技術開発が佳境を迎えています。エタノールは、現在98%がコーンやサトウキビなどのバイオマス由来であり、環境負荷が低い原料です。現在、各製紙メーカー様がパルプなどの非可食成分からエタノールを得る取り組みを精力的に進められているほか、積水化学工業様などのメーカーが廃棄物や排ガス由来のエタノールを製造する取り組みを始めるなど、エタノールを製造する原料の多様性も広がりを見せています。

 また、通常、プラスチック原料のプロピレンは、エタノールからエチレン、ブテンを得てからメタセシス反応を行ってプロピレンを得る、という複数工程を経て得られますが、当社ではエタノールを原料に、高度なプロセス設計・触媒技術を活用して、副生成物や不純物も少ないプロピレンを一工程でつくることに成功しました。すでにパイロットプラントでの実証が進んでおり、現在は自社実施の可能性検討と並行して、ライセンス供与の可能性も含めて、どの場所で、どのようなかたちで実装していけばどんな経済性が出るかを議論している段階です。あと1年か2年で最適解を見出したいですね。

「GX技術ライセンス」を基軸に多様なステークホルダーとともに炭素循環バリューチェーンを構築

――いろいろと進捗がありこれからが楽しみですね。一方で、そうした技術を広く社会に実装していくためには社会実装に向けた戦略面も重要になります。どんなことを重視していますか。

 はい、それについてはいくつかの観点があります。その一つは、資源循環社会の実現は当社一社だけでは到底成しえない、という認識に基づくバリューチェーンの構築です。そのため、当社は自社で再生して売ることだけを考えるのではなく、リサイクル事業者など静脈企業を含む原料サプライヤーの方々や、同業である化学品・樹脂製造事業者の方々、また販売先であるプラスチックを使って各種成形をされている事業者の方々、製品ブランドオーナーの方々などとの連携を重視しています。

 具体的には、静脈企業やプラスチック成形事業者の方々、ブランドオーナーの方々から「こんな廃棄物が使えないか」とご提案いただき、評価をご一緒させていただくなど、資源循環を確実に遂行していくための仲間づくりを進めています。加えて、当社のGX技術のライセンスを提供したり触媒を提供させていただく可能性のある潜在顧客との対話活動も推進するなど、輪をどんどん世界中に広げていくことをめざしています。

 この「GX技術のライセンス提供」は、GXソリューション事業の成長拡大に向けた基軸モデルと位置づけており、各地域での静動脈連携の求心力になることを期待しています。環境問題は、日本だけではなく、世界の問題です。環境負荷低減に貢献できると自信を持てる技術であるならば、他社がやらないように囲い込んで独占するのではなく、どんどん世界中で活用していただくことで、仲間と一緒に社会を本気で変えていきたい――そういう野心の現れとして我々のGXソリューション事業に対するご理解をいただければ幸いです(笑)。

 さらに、将来的には顧客のCO₂削減効果をカーボンクレジットで受領することも想定しています。私は、こうした炭素循環に向けた多様なビジネスの道筋を包含するところが、「GXソリューション」と呼ぶ所以だと考えています。

――カーボンクレジットの活用などでは国や関係省庁との連携も重要になりますね。

 はい、GXソリューションを社会のエコシステムとして成立させるためには、一企業の努力だけでは不十分で、国や関係省庁とのコミュニケーションや目標共有が極めて重要になります。政策、予算、規制、社会制度など、「企業の取り組み」×「政策の後押し」が脱炭素社会を実現するというビジョンを行政や産業界、学術界と広く共有することで、GI基金などの大型支援制度との連携が生まれ、技術開発から市場形成、社会実装までを進めていくことができると考えています。

 そのため当社はアドボカシー(を意識しながら、単なるお願いや要望ではなく、自社の技術や今後構築していくバリューチェーンでの取り組みが、社会全体の価値になることを政府・省庁に対して積極的に説明し、政策形成に建設的に関わっていけるように努めています。炭素循環資源関連のさまざまな規格作成にも携わっていますが、これもその価値を最大化していくための取り組みの一つです。

社会の課題を解決するために政治、経済、社会などにおける決定に影響を与えることを目的とした個人・グループによる社会活動や啓蒙運動

世界標準の低炭素・循環型製品”というブランド確立へ

――これまでの取り組みや手応えを踏まえて、この先の課題や展望、取り組んでいきたいことをお聞かせください。

 先進的な取り組みに対して、非常に前向きに受け止めてくださるお客様が、最初は少数だったんですが、マクロな経済環境が後退しているなかでも、一緒に取り組みを進めていきたいと行動をともにしてくださるお客様も増えてきて、事業化に向けた動きが活発化していることに大きなやりがいを感じています。こうした期待にしっかり応えていくためには、前述した技術を活用して年産10万トン20万トン規模のプラントで、汎用性の高い化学品を量産していく、スケール感の伴った社会実装を進めることが必要不可欠です。逆にこれができると、一部の顧客だけでなく、社会そのものが変わっていく大きなうねりにつながっていくと思います。

 また、これまで技術開発やバリューチェーン、経済性の重要性に触れてきましたが、炭素循環技術が広く社会に浸透し、大規模に活用されるためにはもう一つ、“社会の受容性”を高めていくことも不可欠です。いくら我々が炭素循環技術を究めても、その価値が伝わらなければ社会へのインパクトは限られるからです。

 こうした考えから、当社は、事業化を開始してきたリニューアブル製品において、サプライチェーン全体でのトレーサビリティの証明に向けたISCC+(国際持続可能性カーボン)認証の取得も進めてきました。これによって、どの原料がどこから来て、どの工場でどんな化学品にリサイクルされた製品かを明確に示すことができ、社会に安心して使ってもらえるようになりますので、今開発中の技術もしっかり認証を取得していくことも前提として考えています。

 そして少しでも早く、現在開発中の技術を当社のMeguri®ブランドの“期待の大型新人”としてデビューさせて、世界標準の低炭素・循環型製品・技術として社会にアピールしていきたいと考えています。

社会課題解決型事業の創出を通じて「住友の事業精神」を体現していく

――最後に、ステークホルダーへのメッセージをお願いします。

 当社の炭素循環の取り組みについて、多くの方々にご理解をいただきたいのはもちろんなのですが、個人的には、我々の取り組みと住友の事業精神との一体性についてぜひ知っていただきたいと思います。

――「自利利他公私一如」という言葉が有名ですね。「自らの利益を追求することは、社会への貢献と一致し、公的な責任と私的な利益は一つの如く不可分である」という。

 はい、当社の誕生は愛媛県新居浜市の別子銅山の銅の精錬工程で起きた深刻な公害問題がきっかけでした。明治時代、銅を精錬する過程で銅鉱石に含まれる硫黄分が亜硫酸ガスとして大量に排出され、周辺の農作物や森林を枯らす「煙害」が発生したのです。住友は精錬所を沖合の無人島に移転するなど多大な費用を投じましたが、風でガスが拡散し被害はさらに拡大してしまうなど、なかなか効果的な方策を打ち出せずにいました。

 この危機を打開するため、最終的に住友は、ガスの原因物質である硫黄を回収し、有効活用する道を見出したのです。そして1913年、亜硫酸ガスから硫酸を製造し、それを原料に肥料をつくる「住友肥料製造所」を設立。これが当社の直接的な発祥です。つまり、煙害という社会問題の解決に向けた技術革新が当社の事業の礎を築いたというわけです。

 この姿に私は現在の当事業化推進室の取り組みが重なって見えます。もちろん、先人の艱難辛苦を思えば我々の活動はまだまだ未熟の域を出ませんが、便利な一方で循環されずに焼却されてGHGを排出し、ひどい場合には適切な処理もされずに海洋流出して問題を引き起こしてしまっているプラスチックを何とか持続可能なものにしていこう、ピンチをチャンスにしていこうという活動に、私をはじめ少なからぬメンバーが約100年前に創業時の方々が持っていたであろう大きな使命感を抱いていることは間違いありません。この想いをエネルギーに、炭素循環型社会の実現にこれからも邁進していきます。

取材後記

 「炭素を循環させることで、社会に不可欠な資源へ転換する」——野末様の言葉には、単なるサステナビリティ推進にとどまらない、素材技術の可能性に挑む技術者としての、そして新たなエコシステム創出に挑むビジネスパーソンとしての確固たる意志が宿っていました。

 印象的だったのは、住友化学が炭素資源循環事業化推進室を「2030年以降の成長ドライバー」と明確に位置づけている点です。ESGへの逆風が吹く今だからこそ、長期的な視点で技術開発とバリューチェーン構築を粛々と進める姿勢は、戦略的な「先行投資」の本質を体現していると感じました。

 さらに深く胸に刻まれたのが、住友化学の創業の原点にまつわるお話です。明治期の煙害という社会課題を技術革新で乗り越え、事業の礎を築いた先人の歩みと、廃プラスチックという現代の社会課題にケミカルリサイクルで挑む今の取り組みが、「自利利他公私一如」という住友の事業精神でひとつに結ばれている——その一体感に、大きな共感を覚えました。ピンチをチャンスに変える「炭素循環型社会」の実現に向けた、住友化学の挑戦を引き続き注目していきたいと思います。

(ブレーンセンター 武田 仁) 

住友化学株式会社

1913年創業の総合化学企業。「自利利他公私一如」の精神を基盤に、社会課題の解決と産業発展への貢献を使命とする住友化学グループは、アグロ&ライフソリューション、ICT&モビリティソリューション、アドバンストメディカルソリューション、エッセンシャル&グリーンマテリアルズの各分野で技術革新を進め、世界の暮らしと産業を支える多様なソリューションをグローバルに提供している。

https://www.sumitomo-chem.co.jp/

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