キーワード:自動車リサイクル/サーキュラーエコノミー/Car to Car/X to Car
自動車リサイクルの現場が今、大きな転換点を迎えています。「WX(Waste Transformation)環境企業への挑戦」を掲げるTREグループの中核会社として年間約20万台の使用済自動車をリサイクル処理するリバーは、多様な廃棄物から自動車再生材を供給する「X to Car」事業を強化すると同時に、動脈産業との連携による「Car to Car」モデルの社会実装に向けた技術開発を加速。世界的な潮流である「自動車サーキュラーエコノミー」の実現に向けた新たなプラットフォーム構築に邁進しています。日本発の「静脈メジャー」をめざして、これら自動車リサイクル事業の変革に挑む事業統括部 サーキュラーエコノミー課の平野幹尚氏にその最前線を語っていただきました。
※本記事は、リバー株式会社のオウンドメディア「ecoo online(エクーオンライン)」との共同企画です。
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リバー株式会社 事業本部 事業統括部 サーキュラーエコノミー課 課長
BlueRebirth協議会 広報分科会 副会長
平野 幹尚
大学時代は化学を専攻していたが、廃棄物削減やリサイクルに関心が高く、新卒で産業廃棄物処理会社に就職。その後、ITベンチャーでマーケティングや新規事業推進を経験し、2020年にリバーホールディングス(当時)へ入社。事業戦略部への配属当初から「静脈メジャー」を視野に入れた同業者連携の取り組みに携わる。自動車リサイクルにおける動静脈連携に向けた取り組みにも当初から参画し、発足した「BlueRebirth協議会」では広報・啓発活動に尽力中。
「地球を資源だらけの星にしよう。」をビジョンに掲げて
――サーキュラーエコノミー事業、とりわけ自動車リサイクルを成長戦略の柱の一つに掲げています。その背景やねらいを教えてください。
サーキュラーエコノミー(CE:循環型経済)は、従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」というリニア型経済が抱える環境負荷や資源枯渇などの問題を根本から見直し、資源を社会のなかで可能な限り循環させるという経済モデルです。世界人口が増加し、資源需要が高まるなか、限りある資源を効率的に利用することは不可欠です。「地球を資源だらけの星にしよう。」をビジョンに掲げ、リサイクル・廃棄物処理業を営む当社も当然ながらCEの実現に貢献することをめざしています。
そのなかで、自動車リサイクルは従来から当社事業を支える柱の一つであり、年間約1万8千台のELV(使用済自動車)を解体、約20万台を破砕処理するなど、自動車リサイクル事業のシェアは国内約8%と業界トップクラスです。ただ、従来の自動車リサイクルは適正処理をベースに組み立てられており、再生材へのニーズも限定的なことから、自動車の原料に生まれ変わるのはごく一部の素材にとどまっていました。
そうした課題を抱えるなか、2021年10月、TREホールディングスは設立と同時に上場し、第1中期経営計画を発表しました。計画では、「高度循環型社会」と「脱炭素社会」の実現に向けて、廃棄物を資源として再生利用する仕組みづくりを進めること、また環境価値を可視化した再生材の供給や動脈企業との連携を通じて新たなビジネスモデルを構築していくことなど、グループを挙げてCEを推進していく方針が明示されました。
ちょうどその頃、当社に対して自動車部品メーカーから問い合わせが来はじめていました。話を聞くとプラスチック資源循環促進法などの法整備が進むなかで、Car to Carの水平リサイクルができないかと構想しているとのことでした。そのためには、クルマの破砕・解体プロセスに長けた静脈企業の知見や技術が不可欠だと言うのです。CEの実現は、当社のような静脈産業だけでも、動脈産業だけでも成し得ません。そこで、自動車リサイクルを担うTREグループの当社は、 “動静脈が連携する自動車CEの実現”をより明確にめざしていくこととしました。
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強みを活かして「X to Car」事業を拡大
――自動車CEの実現に向けた基本的な考え方や体制、取り組みについて教えてください。
まず体制面からお話しすると、自動車部品メーカーとの連携―当社工場での解体作業の調査をより本格化し、素材メーカーとも協働していくために、2023年、事業部門や事業所を横断して成長事業を遂行する「事業統括部」に「サーキュラーエコノミー(CE)課」が新設されました。自動車は鉄・非鉄・プラスチックなど多様な素材が混在していることから、ELVを取り扱うELV川島やELV柏、ミックスメタルやプラスチックを選別している那須などの各事業所の知見やノウハウを結集して臨む必要があると考えたからです。
活動の基本方針は、TREグループが掲げる「WX(Waste Transformation)環境企業への挑戦」 を自動車リサイクルの現場で実践していくことです。WXとは、さまざまな企業や自治体・団体と動脈・静脈の枠組みを超えた“共創”の力を発揮して高度循環型社会、脱炭素社会を実現していくことを意味しています。この基本方針のもと、現在当社は二つの循環モデルに取り組んでいます。
一つは、「X to Car」と呼ばれる自動車以外の廃プラスチックなどさまざまな廃棄物(X)を自動車部品(Car)に再生利用する取り組みで、これは当社の強みである国内有数の破砕能力をもつ大型シュレッダーや広域な回収ネットワーク、多品目対応力などが大いに活きる事業です。
ちなみに環境省は、2031年から2035年にかけて国内で生産される新型車のプラスチック使用量の15%以上を再生材で賄う目標を掲げており、いかに安定供給できるかが当社の腕の見せ所です。そのため、当社は2026年2月に川島事業所の設備を更新し、電力効率を最適化しつつ年間最大 60,000 トンに及ぶ大量の破砕処理ができる体制を構築しました。
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川島事業所の新シュレッダー
また、「選別」工程では、ELV由来のASR(自動車シュレッダーダスト)の再資源化を行うために、選別に特化した壬生事業所を立ち上げました。また、素材メーカーとの連携によって自動車由来の樹脂をしっかり選別して再資源化する取り組みも進めています。さらに、TREグループでは「TRE環境複合事業」構想を掲げ、市原市にASRの再選別事業のほか、容器包装リサイクルの選別などを行うソーティングセンターの計画を進めています。
一方で、自動車生産に不可欠な「鉄」をめぐっては、製鉄業界が脱炭素化に向けて高炉から電炉への移行を進めており、その原料となる高品質なスクラップの確保が重要になっていえます。こうした環境変化のなか、当社はELVや廃家電など、多種多様な廃棄物から高純度の電炉投入材を安定的に供給できる技術を磨いており、鉄鋼業界においても静脈パートナーとしての役割を担っていきたいと考えています。
――一口に「X to Car」といってもさまざまな取り組みがあるのですね。
多業種の企業の「総合リサイクルパートナー」をめざす当社にとって、X to Carは自動車分野のCEを実現していく上で重要な成長戦略です。ただ、成長事業ならではの難しさもあります。再生原料の需要は間違いなく高まっていくのですが、どれだけの価値がつくかは市場形成のタイミングとの兼ね合いなので、経済合理性をチェックし続けていくことは必須です。
そうした観点から、自動車メーカーはじめ動脈産業や関連省庁、自治体に対しては当社の取り組みを積極的に発信し、情報共有を図るようにしています。上場して社会的信頼度が高まったこと、また相手側も環境・資源問題を重要視していることから、ヒアリングに来られる機会も増え、CEへの関心や実現への期待を肌で感じています。
「Car to Car」プラットフォーム構築への挑戦を開始
――次に、もう一つの循環モデル「Car to Car」について教えてください。
自動車由来の再生材を再び自動車に活用するCar to Car、つまり水平リサイクルの実現に向けた取り組みも進めています。 その一つが、“自動精緻解体システムを起点とした動静脈融合バリューチェーンの構築”を目標とする「BlueRebirth協議会」での活動で、2025年6月に産官学36社・団体が集まって設立されました。
さきほど、2021年頃に自動車部品メーカーから「Car to Car」に向けてお声がけがあったと言いましたが、その1社が、このBlueRebirth協議会を中心となって進めたデンソーさんです。その後、環境省の実証事業を経て、現在のBlueRebirth協議会につながりました。設立にあたっては、当社も静脈産業の立場から主幹事会社の1社として参加しています。
――自動精緻解体システムとはどのような技術でしょうか。また、自動車CEにどのようなインパクトをもたらすとお考えですか。
破砕した後に選別するという従来の方式では高純度の再生原料の確保には課題が多く、再生材利用拡大のボトルネックとなっています。そこで自動精緻解体システムでは、AIの認識・判断技術やロボティクスを組み合わせて、車両ごとに形状や損傷が異なる部品を最適な動作でスピーディに自動分解・分離しようとしています。そのためには、実際に手作業でやっている解体や分離の作業手順やノウハウを知る必要があったことから、デンソーさんとの協業が始まったというわけです。
また、自動化のインパクトは大きいと思います。自動車や部品メーカーが求める厳格な品質基準を満たした多様で高純度な再生原料を「質・量・コスト」の面で安定供給できるようになれば、我々静脈産業における深刻な人手不足の解消につながるだけでなく、日本の自動車産業の国際的な競争力を高めることにもなるからです。
というのも、再生材使用の義務化は国内プラスチックに限った話ではなく、国際的なトレンドとなっています。具体的には、欧州では2030年代からELV由来の再生材使用率の義務化を謳う「ELV規則」の導入がEU理事会と欧州議会で暫定合意に至り、再生原料をいかに安定的に確保し、信頼性ある部品として活用していくかは世界の自動車メーカーの新たな“競争軸”になっていくと思います。
そこでBlueRebirth協議会では、3年という活動期間を定め、当社が所属する自動精緻解体システムの開発をテーマとした「開発分科会」とは別に、再生原料を安心安全に使用するために必要な規格化やトレーサビリティシステムを研究する「社会標準化分科会」、国の規制や補助金、産業界のルールなどを検討する「環境制度設計分科会」など6つの分科会を設け、それぞれロードマップを策定しています。このロードマップに沿って、持続可能な自動車CE産業が立ち上がるまでの準備を整える。それがBlueRebirth協議会のゴールです。
BlueRebirth協議会がめざす2035年の姿
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――技術開発の進捗や手応えはいかがでしょうか。
さまざまな課題がありますが、私としては自社だけではできないCEのバリューチェーンの構築を、日本を代表する動脈企業の皆さんとともに汗を流し、一つひとつ課題を克服していくところに大きな魅力と可能性を感じています。
また、直近のトピックスとしては、2月の川島事業所の設備更新と同時に、デンソーさんと共同で新たな研究開発棟を新設しました。今後は研究棟内に実証設備の導入を予定しており、課題検証を進めることで動静脈融合のバリューチェーンの構築やCar to Carの実現につなげていきたいと考えています。
「Car to Car」と「X to Car」
| Car to Car | X to Car | |
| 由来 | 使用済自動車(ELV) | 自動車以外(建材・包装材など)も含む |
| 目的 | 自動車ライフサイクル内での水平リサイクル | 自動車向け再生材の不足を補う |
| 背景 | EU規制、ELV由来プラの利用義務化 |
日本で2031年までに「再生材15%義務化」など |
| スキーム | 自動精緻解体・素材回収 | 解体 → 破砕 → 選別の高度化 |
増大する「違法ヤード」問題
―課題についてもお聞かせいただけますか。
はい、これは自動車リサイクル業全体ですが、国内のELVがどんどん減少していることが課題としてクローズアップされています。さきほど年間20万台を破砕処理していると言いましたが、実は最盛期には30万台を超えていました。ところがコロナ禍の半導体不足で新車販売が滞り、最近は円安で日本の高品質・高耐久なクルマがどんどん海外に高値で輸出されています。
ただ、それだけであれば通常の経済活動の範囲内ですが、問題は、本来は国内で適正処理・リサイクルされるべきELVや部品が、各種の環境・道路交通・リサイクル法令を無視して無許可、かつ名目違いの空き地や農地で無届け営業をする違法ヤードを経由して海外に流出していることです。
こうした違法ヤードは、盗難車の流通拠点になりやすく、周辺環境や地域社会にも大きな悪影響をもたらしています。もちろん、我々リサイクル業界においても、正規部品の価格が高騰し、このままでは経済的に成り立たなくなり、新たな投資ができなくなるおそれがあります。
――対策は進んでいるのでしょうか。
はい、違法ヤード問題には大きな危機感を抱いており、当社ではここ数年、政府の政策形成の手法が公開プロセスへと変化してきたことも踏まえ、他社とも連携しながら積極的に情報提供したり厳格な規制を導入するよう意見を述べたりしています。
こうした取り組みが一定評価され、近年、環境省は「不適正スクラップヤード」として正式に調査・検討を開始しており、ヤードを許認可制にするなど規制や制度強化を図っていく方向で議論が進んでいます。
日本の産業界を支える「静脈メジャー」へ
――最後になりますが、平野さんはこれから自動車リサイクルの世界をどんな風に成長・発展させていきたいと考えていますか。個人的な想いも含めて教えてください。
その点に関しては明確な答えをもっています。「静脈メジャーになる」ことです。もともと私は学生時代に環境問題を学んでいたことから、新卒で廃棄物処理・リサイクル業界に入ったのですが、当時の会社では正直、そんな挑戦のチャンスがある業界とは思っていませんでした。
ところが数年後、たまたま知り合ったリバーの方から「業界知識があるなら」と入社を勧められました。聞くと、これまで新たなリサイクル法が制定・改定されるたびに、それを成長の機会として捉え、さまざまな許認可を取得し、また社員教育に注力しながら人材を強化して総合力を磨いてきた会社とのことでした。
そのなかでも印象に残っているのは、リバーの松岡社長が上場前に仰っていた「上場して日本発の静脈メジャーをめざす」というメッセージです。これは当時、3Kとか5K職場と言われながらも「そういうものだ」と思い込み、リサイクル事業で先行する欧米の静脈メジャーなど夢のまた夢と考えていた私にとって衝撃であり、「成長はこれからが本番」と言い切るトップの言葉に「ここならやりたいことを思う存分できそうだ」と確信しました。
こうして2020年に入社し、事業戦略部として経営戦略に関わるなかで自動車リサイクルにも携わってきました。その頃からこの業界でもサーキュラーエコノミーという大きな潮流が広がり始めていました。以来、これまでお話ししてきたように当社を取り巻く事業環境は速度を増して変化し続けており、リバーらしく成長していく大きなチャンスだと考えています。
――静脈メジャーへの夢は実現しそうですか。
わずか5、6年ではありますが、その間にリバーならではの成長スピードや変化への対応力を実感してきました。そうした経験から、当社は静脈メジャーをめざせる位置に近づいていると感じていますし、そこに到達しないといけないとも思っています。
リサイクル技術は今後あらゆる産業の競争軸になっていくはずです。つくるだけで終わらるのではなく、資源を再び価値ある原材料として循環させていく“再生原料メーカー・リバー”が日本の動静脈産業のプラットフォームとなるよう、着実に歩みを進めていきたいと考えています。
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取材後記
平野さんのお話をうかがい、リニア型経済からサーキュラーエコノミーへの転換において、静脈産業が果たす役割の大きさを改めて強く実感しました。
一般的には再生原料をどのように製品化するかに注目が集まりがちですが、その前段階である「いかに再生原料を安定的に確保するか」、さらには海外流出の抑制や、メーカーが実際に利用できる水準まで純度を高めるといった工程こそが、循環の成否を左右する重要な領域であると感じました。
とりわけ自動車のように厳しい品質基準が求められる分野において、X to Carも含めた取り組みによって再生原料を「使える素材」に引き上げていくリバー株式会社の挑戦は、単なるリサイクルの枠を超えた「再生原料メーカー」への進化を示しています。経済性や規模の追求など課題はありますが、サーキュラーエコノミーが理念にとどまらず、現実の産業として成立していく兆しを感じる取材となりました。
(ブレーンセンター 中井 明世)

プライム市場に上場するTREホールディングスの主要子会社。使用済自動車の解体から破砕、選別まで一貫処理体制を持つ、自動車リサイクル業界のリーディングカンパニー。年間約1万8千台の解体、約20万台の破砕処理実績(国内最大級)を誇り、全国18拠点のネットワークで高品位な再生材の安定供給体制構築を進める。TREホールディングスが掲げる「Waste Transformation(WX)」のコンセプトのもと、廃棄物の可能性を最大化し、循環利用を前提とした社会への変革をめざすとともに、動静脈連携による資源循環モデルの構築やサーキュラーエコノミーシフトに取り組んでいる。



