キーワード:LED照明/サーキュラーエコノミー/リサイクル
蛍光灯からLEDへ。日本の照明が大きな転換期を迎えるなか、パナソニック エレクトリックワークスの阿部益巳氏は、白色LED光源の研究開発から事業企画へと仕事の領域を広げ、現在は照明器具の資源循環を社会実装するプロジェクトを率いています。専門外の領域にも臆せず踏み出し、自ら学び、現場で試行錯誤を重ねてきた阿部氏に、これまでの仕事の節目、サーキュラーエコノミーにかける思いを聞きました。
※本記事の取材は、「未来へのインタビュー」の一環として学生インタビュアーが参加しました。
Person
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パナソニック エレクトリックワークス株式会社
ライティング事業部 綜合企画室 環境企画推進課 課長
品質・環境革新センター 品質・環境マネジメント部 環境CE推進課 課長
阿部 益巳
2004年、松下電器産業(現パナソニック)に入社。白色LED光源の研究開発に携わり、LED照明の普及を技術面から支える。事業環境の変化を機に大学院で事業戦略を学び、2020年から照明事業の企画を担当。現在は、照明器具のリユース、リファービッシュ、リサイクルを組み合わせた資源循環モデルの構築と社会実装を推進している。
<出演>パナソニック エレクトリックワークス 公式YouTubeチャンネル
環境をまなぼう「教えて 阿部さん!!」
「光」に惹かれ、専門外の世界へ
――はじめに、照明の仕事を選んだ理由から教えてください。
大学院では物理化学を専攻し、界面活性剤を研究していました。就職先としては化粧品会社や化学メーカーが一般的です。ただ、山形出身の私にとって、家族みんなが知っている会社で働くことには特別な意味があり、専門とは関係なく2004年に松下電器産業(現パナソニック)に入社しました。
「照明」に目をつけたのは、配属先を検討していた時に見たパンフレットです。「光」にはどこか神秘的なところがあり、純粋に面白そうだと直感し、専門外と知りつつ、社内カンパニーである「照明社」を希望しました。当時は蛍光灯が主流でしたが、LEDの研究部門も立ち上がり始めており、これからはLEDだろうと考え、白色LED光源の研究開発職を選びました。
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略歴
| 2004年 | 白色LED光源の研究開発を担当 |
| 2020年 | 事業企画を担当 |
| 2023年 |
照明器具のサーキュラーエコノミー型事業モデルの企画検討に着手 パナソニックグループで初となる、工場スクラップの水平リサイクルスキームを構築 |
| 環境省「令和5年度デジタル技術を活用した脱炭素型資源循環ビジネスの効果実証事業(デジタル技術活用効果実証)」に採択 | |
| 2025年 |
環境省「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択 使用済み照明器具の回収やリユース・リファービッシュ・リサイクルにおける環境面と経済面の効果を検証し、蛍光灯やLED照明機器の大量廃棄問題の解決に向けて、資源循環ループの早期社会実装と事業化を目指す |
――最初からサステナビリティを意識していたわけではないのですね。
はい、出発点は純粋に光そのものへの興味でした。ただ、その後LEDが普及していく過程を経験したことで、省エネ技術が社会を大きく変える力を実感しました。自分が開発に関わった技術が製品となり、多くの場所で使われ、社会のサステナビリティに貢献していくことに技術者としての手応えを感じるようになりました。
一方で、普及が進むと、事業の焦点は研究開発よりも「いかに多く、安くつくるか」という量産・コスト競争へとシフトしていきます。そのなかで、会社の経営判断としてキーデバイスである光源を外部調達にシフトすることが決まり、自分が取り組んできた領域が縮小していきました。技術者として培ってきた知見やノウハウを、この先どう生かすのかと考えざるを得なくなりました。
事業構造の変化を踏まえて「事業企画」を学ぶ
――そうした時期に、自費で大学院の講座を受けたと伺いました。
LED光源の事業が転換期を迎え、「次に何かしなければ」と思い始めていた2018年から2年間、大前研一さんが率いるビジネス・ブレークスルー大学大学院で事業戦略を学びました。もともと大前研一さんの著書をよく読んでおり、先行き不透明な今こそ直に講義を聞きたいと思い、自費で学ぶことを決めました。
学び始めた当初は、技術者としての経験を次の仕事にどう生かすかを考えていました。しかし、大前さんの著書や講義を通じて、製品や技術だけでなく、市場や顧客、社会の動きまで含めた「事業」を捉える視点を学びました。なかでも、製品と市場を既存・新規に分けて成長機会を探る「製品市場マトリックス」は、視野を広げる大きなきっかけになりました。
――学び直しによって、仕事を見る目はどう変わりましたか。
それまでは、より良いLED光源をどう開発するかが関心の中心でしたが、技術を社会に届け続けるためには、どの市場で、どのような顧客価値を生み、持続的な事業としてどのように成立させるかまで考えなければなりません。学びを重ねるなかで、製品単体から事業全体へ、さらに社会との関係へと、視点が広がっていきました。
その過程で、サステナビリティへの関心も一層強くなりました。企業の成長戦略を調べると、環境問題や社会課題への対応が、将来の市場拡大や競争力獲得と切り離せないことが見えてきます。自分が携わってきたLEDも、使用時の省エネには大きく貢献しますが、普及した製品が更新期を迎えれば、大量の廃棄物が生まれます。つくって売るだけではなく、原材料の調達から使用、回収、再利用までを通して考えなければ、本当の意味で環境負荷を減らしたことにはならない。こうした問題意識が少しずつ形になるうちに、資源循環の仕組みを描いてみたくなり、2020年に希望して事業企画職へ移りました。
――学びは今も続いているのでしょうか。
毎週一社を決め、企業の事業戦略やサステナビリティの取り組みを調べています。製品市場マトリックスを使って、その企業がどこに成長機会を見いだしているのかを自分なりに整理します。以前はLEDや照明に関わる企業が中心でしたが、今は業界を問わず、サーキュラーエコノミーやネイチャーポジティブの先進事例まで対象を広げています。
ちなみに、分析した内容は、LinkedInやFacebookなどで発信しています。もう6年ほど続けています。外に出す以上、曖昧な理解では書けません。調べ、考え、言葉にし、人に見てもらうところまで行うことで、自分の理解も深まります。他社の事例を知ると、自分たちにできることや連携できる相手も見えてきます。この積み重ねが、照明器具のサーキュラーエコノミーを事業として考える土台になっていると思います。
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阿部氏のLinkedInページ。企業研究の投稿が並ぶ。
「廃棄物20万トン問題」の解決を自らのミッションに
――製品の廃棄物問題に対する課題認識と、現在の業務について、改めて説明していただけますか。
一般照明用の蛍光ランプは2027年までに製造・輸出入が段階的に廃止されます。それに加え、2010年頃から普及したLED照明器具も更新期を迎えます。年間出荷台数と平均重量からみると、将来は年間約20万トン規模の廃棄物が発生すると試算されています。また、廃棄物だけでなく、地政学リスクによって必要な資源を安定して調達できなくなる可能性もあります。使用済み製品を資源として循環させることは、環境対応であると同時に、事業継続に不可欠な取り組みでもあるのです。
照明業界喫緊の課題
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これらの課題を前に、当時のビジネスユニット長と「照明器具のサーキュラーエコノミーを業界に先駆けて社会実装できたら事業戦略における差別化の観点でも面白いだろうね」と話したことが今の仕事につながっています。最初から完成した構想があったわけではありません。「まだ誰もやっていないなら、自分たちがやろう」という感覚です。
その構想が最初に動き始めたのが、2023年11月に新潟工場で開始したクローズドループリサイクルです。工場から出る鉄の端材を再生鉄として照明器具に戻す取り組みで、環境面だけでなくコスト面でも成果が得られました。こうした工場内での資源循環に取り組む一方、その対象を市場で使われた照明器具のリユースやリサイクルへと広げる方法も模索していました。そうしたなか、社内の人のつながりから、サーキュラーエコノミーに関連する環境省の実証事業の公募を知り、すぐに手を挙げました。
――環境省の実証事業では、どんなことに取り組んだのですか。
採択されたのは、環境省の「令和5年度デジタル技術を活用した脱炭素型資源循環ビジネスの効果実証事業(デジタル技術活用効果実証)」です。照明器具を廃棄する前に、まだ使えるものはリユースし、使えないものはリサイクルする。このようにリユースとリサイクルを組み合わせ、製品の価値をできるだけ長く生かす仕組みの可能性を検証しました。
具体的には、生活協同組合コープさっぽろの協力を得て、札幌市内の店舗で使われていたLED照明器具の稼働時間のモニタリングと光学特性の抜き取り検査から余寿命を診断し、蛍光灯器具を使用していた別店舗へ移設しました。リユースによって電気代がどの程度変わるのか、追加コストはいくらかかるのか、運用上の課題はないかといった経済面の効果を検証するとともに、廃棄物の削減や新たな資源投入の抑制など、環境面での効果についても評価しました。リサイクルについては、鉄と樹脂でリユースと同様の評価を行いましたが、当時まだ素材メーカーが参画していなかったため、机上の試算に留まりました。
実証を通じて分かったのは、リサイクルだけでは利用者の費用負担が増えやすく、経済的な循環をつくりにくいということです。一方、まだ使えるLED照明器具をリユースして蛍光灯器具から置き換えれば、廃棄費用を抑えながら電力コストの低減も期待できます。環境価値と経済価値を両立させるには、リサイクルだけでなく、リユースを組み合わせることが重要です。この気づきが、次の実証実験へとつながりました。
――二つ目の実証実験についても教えてください。
2025年度から、環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に取り組んでいます。最初の実証が、照明器具を循環させるうえでの課題や事業化の条件を明らかにするものだったのに対し、今回は、その解決策を技術として形にし、社会実装へつなげるための実証となります。
具体的には、既存のLED照明器具のトレーサビリティを適切に管理してリユースにつなげる仕組み、高速・高精度な自動分解ロボット、鉄や樹脂に加えアルミ、銅、ガリウムなどを再び照明器具の材料に戻す水平リサイクル、さらに製品や素材の流れとCO₂削減効果を追跡するシステムの開発を進めています。これらを組み合わせて、リユース、リファービッシュ、リサイクルが一つの循環として機能する仕組みをつくり、試算では2030年に当社単体で約13万トン(※)、照明業界全体へ波及した場合は約800万トンのCO₂削減効果を見込んでいます。
※ 当社代表機種:一体型LEDベースライト「iDシリーズ」での試算
低炭素化に資する照明機器の資源循環ループ形成の技術開発・実証
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目指す姿を言葉にし、異なる専門性をつなぐ
――取り組みが大きくなるなかで、阿部さん自身の役割も変わりましたか。
はい。最初の実証では、まず取り組んでみることで、照明器具を循環させるうえでの課題を明らかにすることに重点を置いていました。一方、二つめの実証では、建設、物流、リサイクル、素材、金融、研究機関など、さまざまな分野の専門家が参加しています。それぞれが高い技術や知見を持っていますが、個々の技術を磨くだけでは資源循環の仕組みを社会に実装することはできません。
この実証での私の役割は、目指すべき社会システムの姿を描き、各社の技術や知見を一つの仕組みとして結び付けることです。技術者だった頃は、自分の専門領域を深く掘り下げることが仕事の中心でした。しかし今は、それぞれの分野に詳しい人から学び、力を発揮してもらいながら全体を前へ進めることが求められています。そうしたなかで、技術者として専門を掘り下げ、事業企画として全体を捉えてきた経験が異なる立場の人たちをつなぐ現在の仕事に生きていると考えています。
――構想を、実際に機能する仕組みにするために大切にしていることは何ですか。
一つは、自分の目で現場を見ることです。大阪を拠点に、東京や各地の工場、リユースやリサイクルの実証現場、リファービッシュ対象となる照明器具が設置・使用されている施設に足を運び、実物や使用環境を見ながら現場で作業する方々の話を聞いています。たとえば、会議や資料だけでは、工場端材がどのように分別され、回収した使用済み照明器具をどう扱えば再び資源にできるのかまではわかりません。実際、銅のリサイクルでは、工場端材が排出される当社の群馬工場まで素材メーカーと訪問し、スクラップの分別状況や保管方法を現場で確認するなど、現場・現物だからこそ得られる知見の重要性を改めて実感しています。
もう一つは、全体像とゴールを繰り返し共有することです。専門性の高い人が集まるほど、重視する点がそれぞれ異なります。そこで「何のための取り組みなのか」「最終的にどのような循環を実現したいのか」に立ち戻れるようにしています。
もちろん、計画通りに進まないこともあります。その時は現場で何が起きているのかを確かめ、小さく試し、課題があれば修正する。その繰り返しです。実証では、事前に想定していなかった課題が出てくることも少なくありません。しかし、想定外の出来事も単なる失敗ではなく、社会実装に必要な条件を知るための材料です。机上で考えた仕組みを現場に合わせて修正し、実際に使えるものへと近づけていくことが、実証の意味だと考えています。
自社の差別化から、照明業界を動かす役割へ
――二度の実証を経て、日々の仕事への向き合い方は変わりましたか。
最初は、一人の事業企画担当者として、「会社の差別化につながれば面白い」と考えていました。しかし、実証を重ね、関係する企業が増えるにつれて、自社だけの取り組みでは終わらせたくないと思うようになりました。
現在は、自社の差別化にとどまらず、照明業界全体に資源循環を広げていく役割を担いたいと考えています。使用済みの照明器具を回収し、状態に応じてリユースやリファービッシュを行い、最後は素材として再び照明器具に戻す。より多くの企業が参加し、この循環を業界の仕組みとして定着させることが今の目標です。
――これから挑戦したいテーマは何でしょうか。
まずは、照明器具の資源循環を持続的な事業として定着させることです。その先では、ネイチャーポジティブにも関心があります。省エネ、脱炭素、資源循環を進めても、事業活動による環境への影響をすべてなくせるわけではありません。照明の仕事を通じて、自然の回復にどう貢献できるのか。まだ具体的な答えはありませんが、だからこそ、考え、取り組む価値があると思っています。
――最後に、これからサステナビリティをテーマに仕事に関わる人へ、伝えたいことはありますか。
新しい仕事の始まりは、必ずしも立派な使命感でなくてもいいと思います。「先にやったら面白い」「まだ誰も取り組んでいないなら、自分がやってみよう」。さらに言えば、「これを実現できたら、自分がヒーローになれるかもしれない」という思いが、挑戦の原動力になることもあります。少し目立ちたい、認められたいという気持ちも、決して悪いものではありません。最初の一歩を踏み出し、難しい局面でも取り組みを続ける力になるからです。
私自身も、最初は「会社の差別化につながれば面白い」という思いから、工場で発生する鉄の端材を照明器具の材料に戻す取り組みを始めました。それが環境省の実証へとつながり、今では多くの企業や専門家とともに、照明業界の新たな仕組みをつくる仕事へと広がっています。始まりは小さな動機でも、取り組みを続けるうちに、社会に与える影響や自分が果たすべき役割が見えてくるのだと思います。
サステナビリティは、一部の専門家だけの仕事ではありません。日々の仕事で感じた違和感や疑問を見過ごさず、まず自分で調べ、周囲に働きかけてみる。目の前の課題を自分の仕事として引き受け、一歩を踏み出すことから、新しい挑戦は始まるのだと思います。
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取材後記
「ヒーローになりたい。人の役に立ちたい」。阿部様のこの純粋で熱い思いこそが、困難な壁を越える最大の原動力なのだと深く感銘を受けました。
世界初となるLED照明のサーキュラーエコノミー実現には、再生鉄の加工技術や解体コストなど、現場レベルでの多くの壁があったと伺いました。しかし阿部様は、環境価値のクレジット化によるインセンティブ設計など、理想論に留まらず、ビジネスとして社会に根付かせる仕組みを丁寧に構築されていました。
私自身、環境ISO学生委員会で活動している中で、「社会課題の解決と経済性の両立」の壁を感じることがあります。今回の取材を通じ、綿密なビジネス視点と周囲を巻き込む熱意を掛け合わせることの重要性を学びました。この学びを今後のキャリアに活かしていきます。
(千葉大学 工学部2年 鈴木雄翔)

パナソニックグループの事業会社として、グループの祖業である配線器具を受け継ぎ、照明、環境・エネルギー機器、電設建材、ソリューションエンジニアリングなど、電気設備に関わる幅広い事業を展開。住宅、オフィス、商業施設、スポーツ施設など、社会を構成する多様な空間のくらしとインフラを支えている。「いい今日と いい未来を 電気設備から」をパーパスに、電気設備とデジタル技術を組み合わせ、Well-Beingとエネルギーマネジメントの領域で新たな価値を創出。サステナビリティを経営の基盤に据え、安心・快適なくらしと持続可能な社会の実現に取り組んでいる。
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