キーワード:高度外国人材採用/多文化共生/キャリア形成
深刻な担い手不足という社会課題に直面する建設業界において、青木あすなろ建設は、スリランカを中心とした高度外国人材の採用・育成に力を注いでいます。単なる採用活動にとどまらず、来日前の日本語教育から入社後の生活支援、現場配属後の成長支援までを一貫して行い、一人ひとりが安心して力を発揮できる環境を整えています。その取り組みの中心にいるのが、スリランカ出身で、日本国籍を取得し、現在は国際人財開発室長を務める桜池誠志氏です。自身も異国で学び、働いてきた桜池氏に、取り組みに込めた思いと今後の展望について語っていただきました。
Person
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青木あすなろ建設株式会社 国際人財開発室 室長
桜池 誠志
スリランカ出身。2016年に留学生として来日し、2025年に青木あすなろ建設へ入社。現在は国際人財開発室長として、スリランカを中心に海外の大学を訪問し、技術者の採用・育成活動を推進。日本と海外の若手人材、そして建設現場をつなぐ役割を担っている。
桜が映る池のように――日本を選び、人と人をつなぐ仕事へ
――まず、桜池さんご自身のことをお聞かせください。日本に来られたきっかけは何だったのでしょうか。
私はスリランカの出身で、2016年に留学生として日本に来ました。きっかけは、高校時代に読んだスリランカの小説です。その物語の中に日本の風景や暮らしが描かれていて、「いつかこの国で働いてみたい」という思いを、漠然とですが抱くようになりました。今振り返ると、それが日本との最初の出会いだったと思います。
来日してからは、日本の文化やビジネス環境に触れるなかで、「この国で長く働きたい」という気持ちが少しずつ強くなってきました。治安の良さや住みやすさも大きかったですが、それ以上に、仕事に対する誠実さや、ものづくりへの真摯な姿勢に惹かれました。今は帰化して日本国籍を取得していますが、生涯この国で働いていきたいと考えています。
――「桜池」というお名前も、日本での経験から選ばれたそうですね。
はい。帰化する際に、印象に残っていた風景から名前を選びました。桜が水面に映る池の美しさが好きで、そこから「桜池」という姓をつけました。「誠志」という名前も、もともとの自分の名前の意味である「誠」と「志」に通じるところがあります。自分で決めた名前ですが、なかなかいない名前ではと気に入っています。
――青木あすなろ建設への入社は2025年とのことですが、それ以前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか。
実は、入社する前からスリランカをはじめとする海外の高度人材と日本企業とを結びつける仕事をしていました。ですので、今の国際人財開発室での仕事は、まったく新しい挑戦というより、これまで積み重ねてきたキャリアの延長線上にあるものだと感じています。日本で働きたい若者と、人材を求める日本の企業。その双方の思いを理解しながら、より良い出会いをつくっていくことが、私の役割だと認識しています。
人手不足という社会課題に直面する建設業界で、高度外国人材の採用を強化
――青木あすなろ建設は、2022年より高度外国人材の採用を本格化しています。その背景を教えてください。
建設業界を取り巻く環境は大きく変化しており、とりわけ人手不足は業界全体で避けては通れない課題となっています。現場を担う若手人材が減少するなか、将来的な担い手不足への危機感は年々高まっています。国内の新卒採用も売り手市場が続いており、当社でも目標人数を採用できない年がありました。
こうした状況のなか、当社は、事業規模やサービス水準を維持し、さらに成長していくためには、これまでとは異なる、新たな人材確保の選択肢が必要だと考えるようになりました。
一方で、調査結果によると、スリランカやネパール、ミャンマーなどには、建築や土木、海洋技術を学び、高い専門性を持ちながらも、母国ではその力を発揮できる場が限られている若者がいます。彼らは、自分の専門性を活かせる環境を求め、日本を含む海外で働くことに強い関心を持っています。
こうした背景から、当社では2022年より外国人学生の新卒採用を本格的に開始しました。単に人手不足を補うためだけではありません。日本の建設現場が求める力と、成長の機会を求める海外の優秀な若手人材。両者をつなぐことで、双方に大きな価値をもたらすことができます。
採用人数は順調に増えており、現在では63名の外国籍社員が活躍しています。今や当社にとって欠かせない存在です。
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選ばれる理由は、信頼を積み重ねてきたこと
――桜池様が入社されて以降も、採用は順調に推移していると伺っています。その理由を教えてください。
採用活動が順調に進捗している理由は、大きく3つあると考えています。
一つめは、現地大学との強固な信頼関係が築けていることです。もともと当社は現地の紹介会社とつながりがあり、スリランカを中心に継続的に大学と連携し、会社説明会の開催や情報提供を重ねてきました。私自身も現地に足を運び、学生と直接話す機会を大切にしています。そうした積み重ねによって、大学側からも信頼できる就職先として紹介いただけるようになり、安定した母集団形成につながっています。
二つめは、意欲も専門性も高い優秀な学生層に直接アプローチできていることです。スリランカでは大学進学そのものが非常に狭き門であり、私たちが連携している国立大学やトップクラスの大学に在籍する学生は厳しい選抜を乗り越えた人材です。説明会に参加する学生も意欲が高く、「日本の技術を吸収したい」「大きなプロジェクトに関わりたい」という思いを持っています。
三つめは、先輩社員の存在です。採用を始めてから4年目になり、すでに入社したスリランカ人社員の当社に関するポジティブな口コミが現地で広がっています。実際に日本で働いている先輩がいることは、学生にとって大きな安心材料になります。「青木あすなろ建設なら安心して挑戦できる」という評判が少しずつ広がっていることを感じています。
――現地の大学生は、日本の建設業界に対してどのような印象を持っていると感じますか。
現地の学生たちは日本の建設会社に対して強いリスペクトと憧れを持っていると感じます。日本の建設業の技術力の高さは、世界にも広く知られており、実際に説明会の場では、「日本の最先端技術を学びたい」「レベルの高い環境で成長したい」という声をよく聞きます。特に向上心の高い学生ほど、より高度な技術を磨き、大規模なプロジェクトに携わることができる日本の建設業界に魅力を感じているのだと思います。
また、日本は治安が良く、安心して長く働ける国というイメージもあります。海外で働くことは、学生にとって大きな決断です。だからこそ、働く環境だけでなく、暮らしの安心も含めて伝えていくことが大切だと考えています。
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採用して終わりではない。来日前から現場配属後まで伴走する
――現在、国際人財開発室では、主にどのような取り組みをされていますか。
国際人財開発室では、外国籍社員の採用だけでなく、入社後の定着や育成までを一貫して支援しています。まず内定者には、卒業後の1年間、現地の大学などで日本語教育を受けてもらっています。来日する段階では、日本語能力試験(JLPT)N2レベルを目標とし、日本語で一定のコミュニケーションが取れる状態で入社してもらえるようにしています。
また、日本語教育だけでなく、日本で働くうえで必要なビジネスマナーやコミュニケーションに関する研修も行っています。特に重視しているのは、現場で実際に起こりうる場面を想定した実践的な教育です。言葉を学ぶだけでなく、日本の職場でどのように報告し、相談し、周囲と協力していくのか。そこまで含めて準備することで、スムーズに職場に溶け込むことができると考えています。
現場配属後も、日本語学習のサポートや、施工管理や安全に関する教育、社内ルールや日本文化への理解を深めるための研修などを継続的に実施しています。
――仕事以外の場面でのサポートもあるということでしょうか。
もちろんです。たとえば、住まいの確保や役所での手続き、電車の乗り方、日本での生活ルールの説明など、多岐にわたってサポートしています。海外から来る社員にとって、日本で働くということは、同時に今までとはまったく異なる環境で生活を始めるということです。日本で長く働き、定着してもらうためには、仕事だけでなく生活における困りごとに寄り添うことが大切だと考えています。
最近では社員数も増え、先輩社員が後輩をサポートする姿も多く見られるようになりました。自分たちが来日当初に困ったことや、乗り越えてきた経験を後輩に伝える。こうした情報共有やアドバイスが自然に生まれていることは、とても心強い変化だと思います。
私たちサポートメンバーが繰り返し伝えているのは、「困ったことがあれば何でも相談してほしい」ということです。小さな不安でも、「ここに相談すれば大丈夫」という場所がある。それだけで、異国で働く人にとっては大きな安心になります。
私自身も、この仕事のやりがいは、人と人、人と会社をつなぐことにあると感じています。外国籍社員の皆さんが少しずつ日本での生活や仕事に慣れ、成長していく姿を見ることは何より嬉しいことです。
――サポートの充実が、定着にもつながっているということですね。
2022年に採用を開始して以来、これまでの離職率はゼロです。私が一貫して伝えてきたのは、先ほども言いましたが「困ったことは何でも相談してほしい」というメッセージ。「ここに相談すれば大丈夫」という安心感を醸成できたことが、この結果につながっているのではないかと感じています。
多様な価値観が現場を強くする
――外国籍社員の人が加わることで、現場にはどのような変化が生まれていますか。
日本の建設業が高い評価を受けている背景には、何度も確認を重ねる姿勢や正確さを徹底する文化、失敗を未然に防ぐ仕組みづくりなど、長年積み重ねてきた慣行があります。一方で、建設業界が人手不足という大きな課題に直面するなか、これまでと同じやり方だけでは乗り越えられない場面も増えています。業務の水準を維持しながら、より効率化を進めていくには、仕事の進め方そのものを見直す視点が必要です。
現場では、外国籍社員から、「なぜここまで多くの打ち合わせが必要なのか」「この確認フローはもっと簡単にできないのか」といった疑問の声が上がることがあります。もちろん、日本の建設現場には守るべき品質や安全の基準があります。しかし、海外から来た外国籍社員だからこそ気づける疑問点は大変貴重で、私たちが当たり前と思っていたことに目を向けるきっかけを与えてくれている。日本の建設業の強みを残しながら、さらに良くしていくヒントになっていると思います。
私は、こうした変化は単なる多様性の効果にとどまらず、組織の成長を支えるエンジンだと感じています。外国籍社員と日本人社員がお互いに学び合い、それぞれの強みを持ち寄ることで、現場はより良くなっていく。違いを受け入れることは、会社組織をより強くすることに直結しています。
昨年10月、当社が所属する髙松グループは、パーパスとして、「つながりで響きあい、オンリーワンの価値を生み出す」を策定しました。私は、外国籍社員の皆さんと日本人社員が仲間としてつながり、それぞれ異なる経験や価値観を持ち寄る今の現場でこそ、この言葉が実感をもって感じられると思っています。
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海外技術者の歓迎会
一人ひとりの成長が、会社の未来をつくる
――今後計画していることや展望をお聞かせください。
会社の方針としては、2027年度までに外国籍社員を100人体制にしたいと考えています。当社全体で約1,000人の社員がいますので、外国籍社員が約10%を占めることになります。
ただ、私たちが目指しているのは単に人数を増やすことではありません。現場からさらなるイノベーションを生み出していくためにも、外国籍社員の皆さんには、将来的に現場を管理する所長や、さらに上の管理職を目指してほしいと考えています。現在活躍している社員は優秀な方ばかりですので、組織の中核を担う存在になるまで、それほど長い時間はかからないのではないかと期待しています。
また、今年度から部署名を「海外技術者育成就労支援室」から「国際人財開発室」へ変更しました。これは、来日直後の支援にとどまらず、入社した皆さんが自分らしく成長し、長期的にキャリアアップできる環境を整えていきたいという思いを込めたものです。採用して終わりではなく、その人がどのように成長し、どのように会社の未来を担っていくのか。そこまで見据えた仕組みづくりに取り組むことが、私たちの役割です。私自身も、現場と人材をつなぐ役割として、現場で起きている課題を一つひとつ解決しながら、誰もが力を発揮しやすい環境をつくっていきたいと考えています。
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――最後に、日本で働きたいと考えている若者や、日本人の若者に向けてメッセージをお願いします。
日本の建設業界は高齢化や人手不足といった課題を抱えています。しかし同時に、世界に誇れる高度な技術力や品質を持つ業界でもあります。建築や土木を学んできた方にとって、自身の専門性やスキルを活かしながら成長できる機会は数多くあります。ですから、日本で働きたい海外の若者に伝えたいのは、挑戦する場所は必ずあるということです。言葉や文化の違いに不安を感じることもあると思いますが、一歩踏み出せば、自分の力を必要としている現場があります。そして、皆さんの知識や経験が、日本の建設業をさらに良くしていく力になるはずです。
また、日本人の若者にもぜひ挑戦していただきたい業界です。建設という仕事は、単に建物をつくるだけではありません。街をつくり、インフラを支え、人々の暮らしを未来へつないでいく仕事です。自分が携わった建物やインフラが長く社会に残り続ける。その意義はとても大きく、この仕事ならではのやりがいに通じています。
国籍や文化が違っても、より良いものをつくりたいという思いは同じです。多様な仲間が力を合わせることで、建設業界にはまだまだ新しい可能性が生まれていくはずです。ぜひ多くの方に、この業界の魅力を知り、自分らしい挑戦の場として選んでいただきたいと思います。
取材後記
今回の取材を通じて印象的だったのは、青木あすなろ建設の取り組みが、単なる「外国人材の採用」ではないということです。建設業界の人手不足という社会課題に向き合いながら、海外で学んできた若手人材の可能性を日本の現場へつなぎ、一人ひとりが長く活躍できる環境を整えようとしている。その姿勢に、これからの日本企業の人材育成のあり方を感じました。
また、外国籍社員の存在が、これまで当たり前とされてきた日本の建設現場の仕事の進め方や価値観を見直すきっかけになっているというお話も印象的でした。現場の人手不足が続くなか、異なるバックグラウンドを持つ社員の皆さんとの対話が、新たな発想や改善への気づきにつながっていることに感心しました。
桜池さん自身もまた、スリランカから日本へ渡り、自らの人生を切りひらいてきた一人です。その経験があるからこそ、海外から来る若者の不安にも、挑戦したい気持ちにも寄り添うことができるのだと思います。人と人がつながり、互いの違いを力に変えていく。髙松グループのパーパスである「つながりで響きあい、オンリーワンの価値を生み出す」という言葉が、現場で確かな形になりつつあることを感じる取材でした。
(ブレーンセンター 徳田 百合子)

青木あすなろ建設は髙松グループの中核企業として、建築事業と土木事業の両分野で事業を展開。オフィスビルや物流施設、工場などの建築物から、トンネルや道路、港湾、河川などの社会インフラまで、幅広いプロジェクトを手掛けている。



