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イベント参加レポート

GX推進機構の小林健太郎氏が法政大学の「CSR論Ⅱ」に登壇

GX推進機構は、経済産業省が所管するGX推進法(※)に基づく認可法人で、正式名称を「脱炭素成長型経済構造移行推進機構」と言います。このGX推進機構の取り組みに、三井住友信託銀行から経済産業省への出向を経て参加する小林健太郎氏が、2025年6月30日(月)に法政大学人間環境学部の「CSR論Ⅱ」にて特別講義を行いました。今回の登壇は、講義を主催されている長谷川直哉教授が、Perspectivesに掲載された小林氏の記事をご覧になり、官民連携で脱炭素社会の実現をめざす日本の進路に関心をもっていただいたことがきっかけとなりました。講義では、世界各国のカーボンニュートラルへの取り組みから、政府が進めるGX政策の全体像、GX推進法を制定した背景とGX推進機構が果たす役割までを解説。グローバルな視点を踏まえながら、日本政府や企業がGXに対してどのような機会創出につなげていくかが具体的に紹介され、学びの多い講義となりました。(※正式名称は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」)

主催者

法政大学人間環境学部人間環境学科教授

長谷川 直哉

安田火災海上保険株式会社(現株式会社損害保険ジャパン)にて、資産運用業務に従事。(公財)国際金融情報センターへの出向し国際経済の調査に従事する傍ら、1999年にESG投資の先駆けとなる「損保ジャパングリーンオープン“ぶなの森”」を開発しファンドマネジャーを務める。2005年「社会的責任投資における企業評価モデルの研究」で横浜国立大学にて博士(経営学)学位を取得。現在は東証プライム上場企業の社外取締役やサスティナビリティ・アドバイザーに携わりながら、法政大学人間環境学部人間環境学科の教授を務め、CSR論や現代企業論などの授業を展開している。

講演者

GX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)
金融審査部 兼 企画・総務部

小林 健太郎

大学時代には「建築」を専攻。建築物そのものより、デザインや数学的思考を活かせる仕事に興味があり、「不動産業務だけでなく、数学的なアプローチを含めた法人RM(リレーションシップ・マネジメント)業務をはじめ、さまざまな事業を展開していて面白そうだった」三井住友信託銀行に入社。法人RM業務では、金融・財務の知識だけでなく、顧客企業の人材戦略や環境戦略の提案などを通じて、企業戦略における非財務活動の奥深さを知る。「もっと幅広く非財務活動について知りたい」と考えるなか、政府のGX戦略を企画立案する経産省へ出向。現在はGX推進機構に出向中。


小林氏の活動を取り上げた記事はこちら:

「脱炭素×成長」をめざす日本の重要政策 ――GX戦略の最前線で

国内外のGXの潮流とGX推進機構の役割

 講義は、最初に日本政府のGX政策の起点が2020年の菅総理大臣(当時)が所信表明で述べた「2050年カーボンニュートラル宣言」にあるとし、これまでの政府の取り組みを紹介していきました。

 そのなかで小林氏は、日本のエネルギー自給率の低さや近年の原油や天然ガスなどの輸入価格の高騰によってエネルギー安定調達がますます重要になっていると指摘。日本社会の持続性を高めていくためには、諸外国とのエネルギー価格差なども考慮しながら、再生可能エネルギーなど国内で安定的に供給可能な電源を確保していくことが不可欠と言います。

  一方、米国、EU、韓国、ドイツなど世界的なGXの潮流も紹介。欧州のグリーン・ディール産業計画やクリーン産業ディールなどに基づく官民140兆円規模の投資など、脱炭素に向けた取り組みが単なる環境政策ではなく、実態として産業政策として位置づけられていることを紹介しました。

 こうした国際的な投資競争のなか、日本政府はGXを「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体を変革すること」と位置づけ、GXを推進することで「脱炭素」だけでなく、「経済成長」と「エネルギー安定供給」の3つを同時に実現することをめざしており、GX推進機構がその一翼を担っていることを述べました。

GXを、「失われた30年」を取り戻すための大きなチャンスに

 また、政府は経済社会システムの変革には今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要と考えており、2023年5月に制定(2025年5月改正)されたGX推進法に基づいて政府が策定した「GX2040ビジョン」や「分野別投資戦略」などの概要について説明しました。その上で、エネルギー・原材料の脱炭素化や収益性向上に資する革新的な技術開発・設備投資に今後10年間で20兆円規模の支援を実施する計画について紹介。併せてその償還原資となる「成長志向型カーボンプライシング」の仕組みも解説しながら、「金融・政策・産業の三位一体で規制と支援の両面からGXを推進する日本の取り組みは、官民連携モデルとして国際的に注目されている」と強調しました。

 金融審査部に所属する小林氏は、GX推進機構という枠組みのなかで日々、GX推進に携わる政府関係者や脱炭素戦略に関する野心的な長期目標を掲げる日本企業と対話を重ねていると話しました。そのなかで実感するのは「日本政府や企業のGXにかける本気度」だと言います。

 そして最後に、学生たちにこんなメッセージを投げかけました。「長期的なGX投資は、AIやロボティクス、量子技術などを活かした産業構造の改革や、素材から製品までの高度なサプライチェーンの構築につながり、日本の成長と地球環境の持続可能性を高めることになる。GXは、いわば失われた30年を取り戻すうえでの大きなチャンス。学生の皆さんもぜひ、GXに本気で挑戦する人々が官にも民にもいるということを知ってほしい」。そう熱く語る姿が印象的な講義でした。


講義に参加して

 GX推進機構による債務保証や出資といった金融支援が企業のGX投資を後押しし、日本の産業構造変革を牽引しているということを、この講座に参加して初めて知った学生も多かったと思います。脱炭素社会の実現に向けて金融が果たす役割の大きさ、そしてGXは単なる環境対策ではなく停滞する日本経済を再生させる歴史的チャンスであることを理解し、希望を抱いた学生も少なくなかったのではないでしょうか。
 世界的に不確実性が高まる中、小林氏が「この転換点をポジティブに捉え、前向きにチャレンジする機運を高めて日本の経済構造を変える大きな流れをつくりたい」とご自身の志を熱く語られていたのが印象的でした。そのメッセージは、気候変動問題を自分事として捉える若い世代のこころにとてもよく響いたことと思います。

(株式会社ブレーンセンター JT)

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