開発途上国でのビジネスを通じた社会的課題解決
Profile
開発途上国でのビジネスを通じた社会的課題解決
独立行政法人国際協力機構(JICA) 民間連携事業部 次長(計画・企業連携担当)
天池 麻由美
2001年JICA入職(当時、国際協力事業団)。大洋州地域やガバナンス分野の事業を担当したほか、開発途上国からの研修員受入事業を中心に国内での事業に長く携わる。海外駐在経験はフィリピン、フィジー。2024年1月より現職。中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)統括を担当し、海外展開を目指す企業や、企業の海外展開を支援する機関等との連携を通じて開発途上国での課題解決に向けて取り組む。
Contents
開発途上国で求められる民間企業の力
近年、経済成長が加速する開発途上国でのビジネスに関心を持つ企業が増えています。開発途上国に流入する資金内訳の推移によると、民間資金が政府開発援助(Official Development Assistance: ODA)を含む公的資金をはるかに上回っています(下図)。
開発途上国へ流入する資金内訳の推移
出典:OECD「Official developmente assistance, other official flows, foreign direct investment, and remittances for ODA-eligible lowand middle-income countries, 2010-22」
開発途上国は、少子高齢化が進む先進国に比べて人口が若く増加傾向にあることや、新たな市場やイノベーションの拠点として注目されています。インフラ整備の課題から固定電話がなかなか普及しなかった開発途上国において、携帯電話の導入により、通話が可能となるのみならず、銀行口座を持たない方でも送金や各種支払を携帯端末によるモバイル決済が可能となり、急速に携帯電話が普及した事例があります。
また、2015年の国連サミットで採択された17の目標と169のターゲットで構成される世界全体の目標である「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」を受けて、ビジネスの持続性と収益拡大にSDGsへの貢献が不可欠との認識が企業にも拡大し、SDGsを経営に取り込む企業や、ESG投資・インパクト投資を重視する金融機関が増えています。
以上のような背景から、開発途上国における課題解決においてビジネスが担う役割は益々重要になっています。
国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA)とは
JICAは、日本のODAの実施機関として、開発途上国の経済社会開発のための事業を実施しています。JICAという名称になじみのない方も、開発途上国でボランティアとして活動するJICA海外協力隊(旧・青年海外協力隊)について耳にされた方は少なからずいらっしゃると感じます。
JICAが実施する主な事業形態としては3つあり、①インフラ整備など国づくりに必要な資金を貸し付ける有償資金協力、②開発途上国の経済社会発展に必要な設備等を購入するために、必要な資金を供与する無償資金協力、③日本の技術や経験を伝える専門家の派遣や、途上国の行政官等を研修員・留学生として受け入れる技術協力があります。
ビジネスで開発途上国の課題解決に取り組む
開発途上国のさまざまな開発ニーズに対し、ODA予算で実施される3事業のみで応えることは難しく、また、冒頭にご紹介したグラフのとおり、開発途上国には公的資金をはるかに上回る民間資金が流入している状況を踏まえて、日本政府は2008年に日本企業とODA等との連携強化の新たな施策「成長加速化のための官民パートナーシップ」を発表しました。これを受けてJICAは、長年にわたるODA事業実施を通じて構築した開発途上国の政府や関係機関とのつながりや情報、国内外のネットワークを活かして、日本の民間企業による自社の製品や技術等を用いた開発途上国でのビジネスづくりを支援する事業を2010年に開始しました。現在実施する「中小企業・SDGsビジネス支援事業」(JICA Biz)に至るまでに制度や支援メニューの変遷がありましたが、事業開始以降1,500件を超える事業を支援しています。
JICA Bizはビジネス段階に応じた2つの支援メニューがあり、各メニューの概要については以下のとおりです。
- ニーズ確認調査
ビジネスモデルの検証
対象国の基礎情報を収集し、開発途上国ニーズ、顧客ニーズと自社製品/サービスとの適合性を分析し、競争優位性を含めた初期的なビジネスモデル(市場規模の把握、顧客の特定、流通チャネル等)を検証 - ビジネス化実証事業
ビジネスプラン(事業計画)の策定
製品/サービスに対する顧客の受容性、現地パートナーの候補を含むビジネスモデル策定に関連する調査を通じ、収益性の検証と製品/サービス提供体制・オペレーションの構築、ビジネスプラン(事業計画)を策定
「ニーズ確認調査」は、途上国や顧客ニーズと自社製品/サービスとの適合性を分析し、初期的なビジネスモデルの検証を行うものです。「ビジネス化実証事業」では製品/サービスに対する顧客の受容性を確認したうえで、現地パートナーを確保してビジネスプランを策定します。
JICA Bizでは年1回公募を実施し、採択された事業に対して伴走支援を通じてビジネスづくりのための調査を実施します。支援内容としては、JICAコンサルタントによるビジネスアドバイザリや、調査対象となる開発途上国への渡航費用など経費支援が含まれます。ビジネス化実証事業では、提案製品・サービスを用いて現地で実証活動を行うための経費支援や、開発途上国の関係者の方々に日本の現場を視察いただくための本邦受入活動に対する支援も行っています。
Perspectivesサイトでも、アサヒグループ食品株式会社様によるベトナムにおける母子健康の改善に向けた取組みの一環として、JICA Bizをご利用いただいたことが紹介されています(すべてはパーパスが起点。離乳食ガイドと商品の展開でベトナムの課題解決に貢献)。同事業については、JICAホームページ上で案件概要や報告書等をご覧いただけます。
ロジックモデルで課題解決の目的やゴールを明確に
2年間の試行的制度改編を経て2024年より新メニューで本格稼働したJICA Bizの特徴として、ロジックモデルの作成が挙げられます。ロジックモデルは、個々の投入・活動と期待される事業効果の間の関係性を、包括的に図示したものです。開発途上国でのビジネス活動に投入される資源(自社製品等)や活動がどのような結果を生み、また、短期・中期・長期的にどのような成果(社会的インパクト)をもたらすかについての筋書きとなります。
ロジックモデルの作成は新たな取組みであり、その進め方については組織内関係者間でも磨く必要があります。しかしながら、私たちはロジックモデルの活用可能性を感じており、現地関係者による事業理解促進のための説明や、インパクト投資や融資等の資金へのアクセスに際し、事業の社会的意義を説明するツールとしての活用に期待しています。また、ロジックモデル作成の過程で事業の目的や目標を社内でじっくり議論することにより、事業に対する社内での理解促進や持続的な取組みにもつながる可能性が考えられます。
ロジックモデルの全体像
出典:JICA「ロジックモデル作成マニュアル」
JICA Biz終了後、約8割が事業を継続
JICA Bizでは終了後のビジネス展開における状況等の把握を目的とした各企業の状況を把握するためのアンケート調査を実施しています。最新の調査結果によると、回答企業の約8割はJICA Biz終了後も事業を継続しており、約半数近くが売上を実現したとの回答を得ています。
事業対象国でのビジネス状況
出典:JICA「2024年度事後モニタリング調査アンケート 調査結果報告書」
JICAではアンケート調査やインタビューを通じて得られた企業様の声や教訓に基づいて、ビジネス展開教訓集~開発途上国でのビジネス化に向けた押さえるべき12のポイント~を公開しています。JICA Biz利用有無に関わらず、開発途上国でのビジネスを検討する際の参考にもなると考えています。
企業との共創推進(Private Sector Engagement: PSE)に向けて
2023年6月に改定された開発協力大綱では、開発途上国との対話と協働を通じて社会的価値を共創することを目指し、生み出された新たな解決策や社会的価値を、日本が直面する経済・社会課題解決や経済成長にもつなげることが述べられています。また、その実現のためには、多様なアクターとの連携や新たな資金動員に向けた取組みがより重要となることが挙げられています。
現在、「共創」による社会課題解決やSDGs達成を目指して、企業とJICAがそれぞれの強みを活かしたパートナーシップや双方のコミットメントによる取組み、Private Sector Engagement(PSE)推進を強化しています。企業との連携はこれまでも実施してきていますが、PSEでは解決すべき課題に対して、既存の事業形態にとらわれずにJICAとして貢献可能な取組みを企業とともに検討する考えです。
PSEによる取組みの一つとして、2024年1月、12月に共創ラウンドテーブルを開催しました。12月の開催では、「インドネシア×水産」、「ベトナム×宇宙」、「フィリピン×農業(コメ)」の3テーマに焦点を当て、各国で抱える課題や日本企業への期待等について情報を共有し、共創アイデア等に関する意見交換を行いました。
【Private Sector Engagement(PSE)関連イベント】東南アジア共創ラウンドテーブルの開催について | ニュース・広報 - JICA
おわりに
開発途上国での社会課題解決に関心をお持ちでも、何から始めたらよいのか迷われたり、現地へ赴くことについて躊躇される方もいらっしゃるかと思います。企業共創プラットフォームのメールマガジンやfacebookでは、JICAや関係組織によるイベント・セミナー情報や事業支援公募に関する情報を発信していますので、関心のあるイベントに参加して情報収集したり、同様の関心を持つ方々とのネットワークづくりにお役立ていただけたらと思います。
また、JICA Biz以外にも企業の方々にご利用いただける事業があり、例えば、JICA留学生として日本の大学院で学ぶ方々をインターンとして受け入れるプログラムがあります。JICA海外協力隊では、企業等を対象とした連携派遣を実施していますので、自社のグローバル人材育成の場としての活用が考えられます。
編集部注)JICA留学生が登場する記事についてはこちら
最近は日本国内の社会課題解決に関心を持つ若者が増えていると聞きますが、例えば地域の過疎化の課題については、開発途上国においても都市部に人口が流出するなどして地方部で同様の課題が見られます。言葉や文化が違っても、共通の課題があることによって共感が生まれ、互いの経験を共有し知恵を絞りながら双方の課題解決につなげるために、JICAがその触媒になれたらと思っています。
JICAは東京にある本部に加えて、国内15カ所に拠点があるほか、「地域のJICA窓口」として国際協力推進員が地域国際化協会や国際交流協会等に配属されています。ぜひお近くのJICAにご連絡ください。
キーワード:JICA Biz/民間支援/共創